第34話 退屈凌は手遊びも良い
「それで、い……遺体というのは?」
家に入ると俺よりも先に男性の方が切り出した。
居ても立っても居られない、俺の話の順番なんて気にしてはいられないといった様子だ。
「そうですね、百聞は一見に如かずといいますし、まずは見てもらった方が早いですよね。」
こっちとしては、遺体がマキコで目の前の夫婦がマキコの両親と分かっているのだから勿体ぶっていても仕方ないし……
俺はローブを脱いで、床の上でローブを仰ぎマキコの遺体を出すと、二人とも膝から崩れた。
静かな家を、慟哭が満たした。
分かってはいたことだが、同じ場所には居られなかった。
俺の目的は、遺体を帰す事だからこれで達成しているわけだ。
これ以上マキコの家に居る理由も無い。
むしろあと四人、帰してあげなければならないし、生きているダークエルフの件もある……
これからこの夫婦に協力して貰うのは酷だし、何より今大切なのはこの遺体と夫婦が向き合う時間だ。
泣き止むまで俺が寄り添うってのは、邪魔になってしまうだろう……
「私はこれで失礼します。」
俺は引き止められる事もなく家から出た。
内心はビクビクしていた。
引き止められても独りで説明するほど知識も状況把握もできていないからだ。
ともあれ、一件目終了だ。
「お待たせ。さぁ、次行こう!」
「はい。」
「マコト!次もこの集落だといいんだけど……」
「残念ですが、一番近くでも隣の集落のヒロシです。」
「はぁ、了解。残りの四人の道中さ、ただ移動するのは勿体ないし、退屈でしょ?」
「うん……退屈といえば退屈かな……」
「そこでだ!提案というか、お願いなんだけど……馬上で出来る初歩的な赤魔法をグラーシュに教えてあげてくれないか?」
「え?……」
「さっきまでやり合っていた相手に魔法を教えるってのも気乗りがしないだろうから。そこは退屈凌ってことで、戦いに使えない魔法でいいからさ」
「戦いに使えなくていいの?」
「いい!いい!なんか……エルフの子供が最初に赤間法に馴染むための“手遊びレベル”の初歩的なヤツ……あるでしょ?」
「あるけど……」
「お願いしますッ!」
グラーシュも超前向きだ。
事前にグラーシュと打ち合わせしてなかったから少し不安だったけど、良かった。
これまでの修得具合や積極的に自主訓練する様子から、きっと俺が言い出したらチャンスだと身を乗り出すとは思ってたけどさ……
こういうのは学ぶ本人のやる気を迷い無く示すことが重要だからね。
俺はグラーシュの顔を見て頷いてしまった。
「そしたらぁ……シンプルに“ファイア”を」
「ごめん、何がシンプルなの?」
「形状や性質に何もアレンジが無いから、“シンプル”……ってか、グラーシュさんは、火属性持ってますか?」
「いいえ!」
「それだと難しそうですね。」
「いや、グラーシュは、風属性ない所から緑魔法のガストジャベリン使えるようになったから、イケるよ。」
「え……?は?ガストジャベリン使えるんですか?」
「はいッ!」
「凄いッ!!それなら可能性はゼロじゃないですね!」




