第33話 鬱な訪問の始まり
マキコの家はコウゾウさんと同じ集落だった。
そして、マコトに促されるまま、マキコの家の玄関に立った。
自分で言い出したものの気が乗らないな。
営業で初めての飛び込み営業をさせられたときに襲われた鬱が、強化されてフラッシュバックしたが、無理やり押さえつけた。
最強スキルを手に入れたって言われても、こういうところは全然弱いし……
何が最強だよッ
「ルラン、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫。ちょっと考え事してただけ。」
「ルラン、ここに来て考え事とか……」
「ごめんごめん、もう大丈夫だから。マコト、ちょっと待っててね。ダークエルフが来たってバレたら、本題である遺体を帰すことに支障をきたす可能性があるから。」
「はい。」
「ごめんくださーい」
声を掛けて玄関をノックすると奥の方で物音が聞こえた。
「はーい。」
女性の声がすると程無くして玄関が少し開き、女性と男性の顔が見えた。
「突然すいません、ちょっとよろしいでしょうか?」
「あのぉ、どちら様ですか?」
眉間に皺を寄せ、震えた声には疑心が滲み出ていた。
いや、マキコが闇落ちした事は認識済みで、用心しているのか……
「すいません、こういう者なんですけど……」
頼むぞ、ミーヴ!
そう念じながら、速やかに身元保証書を見せた。
こいつの説得力次第で、初対面でも、“お宅の娘さんが闇落ちして毒殺されました。“ってヘビーな内容が、初っ端から信頼してもらえるわけで……
「これは侯爵の!?どういったご用件ですか?」
「その……今ルーロックではダークエルフが活動をしていると聞きて来まして……」
「侯爵が……調査ですか?」
「現時点で詳しい話は出来ないのですが……そうですね、“事前調査”みたいなものです。」
「それで?」
「山中で倒れていたダークエルフを見かけまして、近づいてみたら既に息を引き取っていたんです。」
女性の顔から血の気が引き始めたように見えたが、俺は話を続けた。
「外傷も無い事から、毒に当たった可能性が高いんですが……」
「それが何か?」
女性に変わって男性が語気を強めて詰めてきた。
やばいな、ここの家の子でしょ?って話にスムーズに持っていけないかも……
えーい、ままよッ!
「僭越ながら、持ち物を調べたらこちらの集落のエルフではないかと思って……」
「……」
「せめて遺体を家族に帰してあげたいと思いまして立ち寄った次第なのですが……」
女性が小さく震え始めているのが分かった。
これは……いけるかも!
「奥さん、大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です……」
「すいません、玄関先では何ですので、中で聞かせて下さい。」
奮い立たせる女性を案じて男性が入室を促してくれた。
「分かりました。」
返事をして振り返り、二人に声を掛ける。
「ちょっと待っててね。」
「はい。」
グラーシュの返事に合わせて、マコトも頷いた。
「それでは、少しお邪魔します。」




