第21話 差入の背景その3
「はい……ミーヴからの人間との関係は当初からあったみたいです。途中からダーゲンの人間と関わるようになったって言ってました。」
「もしかして……」
「はい。ダーゲンの人間と一緒に活動するようになってから、悪い噂を聞くようになったようです。」
「ルーロックを穢しているって話ですか?」
「はい……」
「穢してるってのがよく分からないんですけど……なんかゴミみたいなものを、隠れて投棄して森の生態系を壊しているとかですか?」
「ちょっと、違いますね。」
「そしたら、どんなことして穢してるんですか?」
「ん-……穢しているというのは、彼ら独特の比喩表現に近いですね。」
「比喩ですか?」
「はい。一部のエルフが、ルーロック山のエルフ以外の者に土地を自由に使わせるように開放しているんです。」
「ルーロック山は、ルーロックのエルフの物なんです。」
「これは今に始まった事ではなく、古の昔から延々と続いている事であり、これからもそうです。」
まぁ、そうだよな……
「しかし、ここに住むエルフの生活が発展しない事に、苛立ちを覚えて動き出している一部のエルフが、エルフの繁栄を願ってできることから始めようと動き始めたんですよ。」
「人材交流から始めました……」
「リスク回避の観点から、同じような立場に立っているマイール山のエルフとの交換留学が最初の取組です。」
マサオがそれか……
「まだまだその成果も大したものではないというのに、次から次へと提案があって……」
「全てを切って捨てることもできないと、妥協してしまった物もあったのです。」
「でも、このルーロック山がルーロックのエルフの物なら、それを切り売りしようと提案したエルフは、どういう考えなのかを他のエルフ達に語ってるんですよね?」
「ルーロック山はエルフの物で、エルフが管理し大切にしていく……」
「そのためには、エルフの繁栄が必要だ。エルフの繁栄のためには、多少の切り売りもやむを得ない……」
「すいません、言葉は正確ではありませんが、こういう発想のようです。」
なんともまぁ……
「なんだか質問攻めにしちゃって、すいません。エルフの繁栄って……エルフの数が増える事ですか?」
「それもそうなんですが……」
「他にも?」
「経済力です。」
そう来たか……
「エルフが増えると、その食料の確保が必要になります。」
「それだけではないです。他の地域との……ミーヴやダーゲンとの交流にも資金が必要になります。」
「もしかして、ダムも?」
「はい、ダムを了解して退去したのも、資金集めに関連しています。」
そんな……俺はそれに加担した?
恨まれる存在か?
「でも、ミーヴ侯爵は、深慮してくださり、ダムの設置場所や設置方法、水の確保もルーロック山自体に負担にならないようにしてくださいました。」
「ダムを使い始めて不都合が生じたら、出来る限り原状復帰できるようにと、ダム建設にあたって山を削るなどはしていません。」
「強いて言うならば、“ルーロック山に配慮し、エルフが立ち退いただけ“で済んだのです。」
そうなのか……やるやん、ミーヴ。
「それどころか、ダムの経営で上がった利益で、ダムの管理とメンテナンスをして、残った一部を、ルーロック山のエルフへ還元する仕組みまで作って下さったので、私たちルーロック山のエルフはミーヴ侯爵に感謝しかありません。」




