第15話 ダークエルフの帰還
しばらくすると、5人のダークエルフが帰ってきた。
かなり疲れ切った様子だ。
分かるよ、今俺潜入捜査中だから、めっちゃ緊張感があって、ストレス酷いもん。
なんていうか、精神すり減らしている感じね。
一瞬、1人のダークエルフと目があったような気がした。
怖っ!
グラーシュの鑑定眼も反応しなかったんだから大丈夫のはずだけど。
折角、慣れてきたというのに、再びドキドキし始めた。
ダメなんだって、もうさ。
35のおっさんよ。
ドキドキで楽しめる歳じゃないんだよ。
潜入捜査は俺に向いてないんだろうな。
俺は5人のダークエルフを追いかけることを止めて、一度洞穴の外で休むことにした。
別に、侯爵に依頼された仕事でダークエルフのアジトに潜入している訳じゃないし。
“おかえりなさーい。奥でみんな待ってるよ~”
心の中で温かく迎えて、5人ともアジトの中に入っていくのを手を振って送った。
当然ながら、5人に気付かれていないっぽいけど。
俺は、木の根元に座り込んで、深呼吸。
スー・・・。
ハ―・・・。
しかし、俺が落ち着く間もなく、ダークエルフが2人、アジトから飛び出てきた。
どうした?
今日はもう営業終了じゃないのか?
顔を赤らめて、辺りを見渡したり、地面を明かりで照らしたり・・・どう見ても尋常じゃない。
中で何かあったのか?
出てきた2人のダークエルフが中に入っていくのに合わせて、俺も後を追って再度中に入っていった。
着いた先は、さっきまでお邪魔していた広間だった。
ただ、様子が違う。
初めに居た5人は並べて寝かせられていて、顔には布が被せられていた。
そのすぐそばで、3人のエルフが遺体にすがって嗚咽していた。
そうか・・・。
差し入れの食事だけじゃなく、毒消しにも毒が含まれていたんか。
さっき、毒消しを飲んで落ち着いたんじゃなくて、それが決め手になってしまったって事か。
どうして俺はこう・・・正常化バイアスが抜け切れないんだ。
現代日本でしっかり平和なお花畑思考を叩き込まれてしまって、この世界では、それが通じないと分かっているのに。
たまたま俺の仲間で今回の事態が発生しなかっただけで、俺たちも目立つようになれば狙われる可能性も高まるわけだし。
なんなら、大金持ってるとか、侯爵と繋がりがあるとかってのも、狙われる理由になりうる訳で・・・。
気持ちを切り替えなければ。
それと、毒消しは一般的な効果しかないから、専門的なのは別途専門医で専門薬って話だったっけ・・・。
特定の毒には特定の解毒薬が効くってのは分かるけどさ。
そんなん気にし始めたら、どれだけの種類の特定の解毒薬を集めてもキリが無いぞ。
しかも、集めたところで、症状が似ていればどれを処方するのが良いかなんて、ド素人の俺にはわからないし・・・。
「高熱が出て死にます」って言われても、そんなばっかりな気もするし。
そもそも、この世界でも、人間・・・だけじゃない、エルフが口にできるものだってそう多くは無いはずだ。
むしろ、口にできない毒物の方が多いような気がする・・・
ゴブリンも使っていたけど、毒ってのは質が悪いな。




