第7話 練り上げ
グラーシュは、かれこれ20分以上は動いている。
格闘技が分からない俺でも、一生懸命やった修行の成果を見せてくれていると思うと、無下に止めることも、飽きたからと立ち去る事もできずに見ているけど・・・。
型って、こんなに長い時間やるもんなの?
音が木から時々鳴っている事に気が付き、注視すると音と同時に、木に風穴が空いていくのが分かった。
ちょ、これ・・・。
もしかして、ずーっと、打撃の先から極細のウォーターニードルを、歪み無く、一直線に様々な角度から立木に打ち込んでいたの?
「せいっ!」
グラーシュの最後の正券突きは、こぶし大の水の塊が発射され、着弾と共に木を倒した。
「こんな感じです。」
えーっと、覚えたのは魔法だったよね。
俺の魔法のイメージと随分違うんだよな~。
でも、グラーシュの笑顔からあふれ出る達成感に、「これじゃない!」とは言えない。
どんな知識もスキルも、結局のところ、机上の空論ではなく、いかに自分らしく昇華するかだから・・・。
そして、これは、グラーシュが昇華させた結果だ。
「素直にすごいと思うよ。」
「ありがとうございます!」
「ちょっと、俺の理解が及ばんもんで、教えて欲しいんだけどさ。」
「何でしょう。」
理解が及ばないというか、“空”だから見えないし、感じることができないからなんだけど。
「フォグパレス使用しながらだったよね?」
「はい!」
「フォグパレスの展開中に格闘術に魔法をかけ合わせて見せてくれたのは、負荷の掛かっている時にもできるって事?」
「それも有りますが、フォグパレス域内に入った敵を想定してのことです。」
「なるほど、入られる可能性有るの?」
「あるようですよ。」
「え?」
「だって今のフォグパレスは、ルラン様を防御対象外にしてましたからね。」
「ちょ・・・そう言う事は、先に言ってください。」
「ごめんなさい。ルラン様は大丈夫だと思ったので。」
それ、“根拠のない大丈夫”だろ?勘弁してよ。
「私のフォグパレスもかなり熟練度が上がってきたと思うのですが、ルラン様は、フォグパレスの域内特有のデバフ受けました?」
「デバフ?」
「弱体化効果です。」
「ごめん、よく分からなかった。」
だって、俺、自分が防御対象に含まれていない事さえ気が付かなかったんだよ。
ヤバない。
なんか段々不安になってきた。
魔法を掛けれたけど平気ってのと違って、魔法をかけられた事さえ自覚が無いって、致命的じゃないかな。
たまたま今まで俺に影響する魔法ってのに遭遇していないだけで生きながらえているけど。
もし万が一、“空”の俺に効く魔法が存在して、それを掛けられて、自覚が無かったとすると・・・。
怖っ!!
もう一度、ボルカールんとこ戻って、なんか魔法検知器みたいな道具を俺専用に作って貰おうかな。




