第3話 強くてもダメ
おじいさんの制止に、我に返った。
「すいません。」
「お前さん、今忘れとったじゃろ?」
「とんでもない、忘れてなんて、いないですよ。お待たせしちゃってすいません。おじいさんの話は・・・侯爵との関係ですよね?」
「そうじゃ。出会ったときには、これから先、大丈夫かなって心配したんじゃ。」
「確かに、上手く人間関係を作れるか不安でした。自分の苦手なタイプでしたし・・・。」
「一見さんでもいいが、味方にすれば、今後の活動が、いろいろやり易くなるのは、間違いないからな。」
「そうですね。この国の4大領地の1つを統べる侯爵ですからね。」
まぁ、でも、仕事の出来る奴は、無視されないし、話す機会が増えると自然と関係が良くなるチャンスも多くなる訳だし。
何より、アクシデントはね。
特に、相手のミスで生じたアクシデントだと、関係改善のチャンスなんだよね~。
そうやって社内でも1つずつ関係作っていって、営業所ではパワハラ地獄だったけど、本社では良好な人間関係の中仕事が出来たもんな~。
案外、前世の経験をここで活かせているのかもしれない。
「多分なんじゃが、お前さんは、最強のスキルを手にしていても、ダメなタイプじゃな。」
「え?」
「最強でもダメ?」
「多分な。」
「何故です?」
「そんなことも分からないの?」
「すいません。」
「マヌケだからよ!」
「・・・」
「違うわ!」
「え?マヌケじゃなくなりましたかね?」
「そうじゃないわ!安心せい!お前さんは、寸分違わず、今も昔もマヌケじゃ!なんなら、そこに関しては永遠の不変性を持っているような気がしてきたわ。」
「そ・・・そんなに力いっぱい言わなくても・・・。」
「もういいでしょ、さっき聞きたかった話って何なのよ!」
ちょ、おじいさんの話まだ途中なんですけど・・・。
でも、このままおじいさんの話を聞いてても、また茶々入れてきそうだからなぁ。
「えーっとですね。もし、俺が俺を吸収するとどうなりますか?」
「そんなもの、無くなるに決まっとるじゃろ!」
「えーー!?」
「冗談じゃ。可愛い冗談じゃ。」
全然かわいくないわ!
今度はおじいさんが茶々入れるやん。
もう、なんなん。
「クソジジイ、ちょっと黙ってなさい・・・ぶつわよ。」
・・・
戦慄が走った。
先日の生肉折檻が頭をよぎった。
多分だけど、おじいさんもそうだと思う。
「言っとくけど、あなたがあなた自身を吸収しても無くならないわ。ピンチだと思ったら、自分自身を吸収するのもいいんじゃないかしら。」
「なるほど・・・分からん。」
「でしょうね。」
「いえ、ピンチになったら自分吸収してもいいって事と、自分を吸収しても、自分が無くなるわけではないという事は分かったのですが、どうしてなのか・・・。」
「そうね。あなたに分かるように説明すると・・・自分の内と外がつながっているって感じかしら。」
「なるほど・・・わから・・・」
「おバカ!もういいわ。そういうもんだって思いなさい!」
「はい!」
「で、出る方法は?」
「そんなもの、いつも通りよ!」
「念じるだけ?」
「そう。」
「出る場所は入った場所ですよね?」




