第1話 武具の受取り
ルーロック山で待つグラーシュのブーツとアルディの弓を受け取りに、ボルカールの店を訪問した。
「いらっしゃいませ~、あ、ルランさん」
「どうも~」
看板娘に名前を憶えて貰えられていたことに胸が躍って、気楽に返事をしてしまった。
「いらっしゃい、あれ、グラーシュちゃんとアルディは?」
後ろからひょっこり顔を出したボルカールの一言に耳を疑った。
グラーシュちゃん?
なんかこのエロジジイの中でちょっと見ないうちに、いかがわしい妄想が膨らませてるんじゃないのか!
「あれ、エレナさんも、アルディさんも居なーい。」
続けざまに看板娘の残念そうな声が店内に響いた。
「今日は俺だけです。頼んでいた商品を受け取りに来ました。」
「馬鹿たれ!誰のための特注品を作ったと思ってるんだ。本人じゃなきゃ渡さんぞ。」
ちょ・・・いっきなり、かましてくれるなぁ。
「話は分かるんですけど、ちょっと、緊急で重大な事件の対応に奔走してて、来れたのは俺だけなんですよ。」
「何が緊急で重大な事件に奔走だ!ダメだ!こっちは命がけで、使い手の事を考えて一生懸命作ってるんだ。小僧、なめんなよ。」
「使い手の事を考えて?」
「そう・・・だ。」
おい、エロジジイ!
今、一瞬だけど、鼻の下、伸びたぞ!
使い手じゃなくて、グラーシュの事しか考えてないだろ!
「いいじゃん、受け取ってさ、不具合があったらまた持ち込むからさ。」
「ダメだ。それは、受取の時にきちんと最終調整をしたのに、不具合があった場合の話だ!」
「っていうか、ルランさん、3人は今どこにいるの?」
「ルーロック山です。」
「ルーロック?それは遠くにいるわね。呼んで来てって話じゃないか・・・ボルカールさん・・・」
「ダメなものはダメだ。何だと思ってるんだ。吊るしを売ってるんじゃないぞ!」
「だーっ、分かりましたっ!分かりましたって。また来ますよ。」
「初めからそうしろ!」
まぁ、受け取れずに引き返すことも想像はしていた。
“受取予定日よりも遅くなってしまったけど、忘れてませんから、忘れないでね”ってつもりで来たからさ。
予想外に、覚えていてくれたし、好印象だったからいいけど。
好印象というか、いかがわしい妄想をするくらい印象づいていたみたいだから、ちょっと困りものだが。
「そうだ、せっかく来たんだから・・・」
「何か買ってく?」
俺の不意の一言に、看板娘の目が輝きを取り戻した。
「いやいや、この店にふらっと立ち寄って買う物、無いでしょ?」
「あはは、そうでした。」
「そうじゃなくて、ちょっと聞きたいことがあって。」
「どんな事でも、答えられることでしたら何でもお答えしますよ。」
「アイテムや武具のランクについて聞きたいなぁって」
「そんなもん聞いてどうするだ?」
「今後の参考にしようかなと。」
「そんなもん参考にならんわ!」
「そうなんですか?でも、そもそも区分け?階級?ランク?を全く知らなくて。たしか、コモン、レア、レジェンド、ユニークでしたよね。」
「それに、ゴッドと未識別がありますので、コモン、レア、レジェンド、ユニーク、ゴッドと、未識別ですね。」
「結構、有りますね。」
「はっきり言って、コモンは使い物にならん。それに、ゴッドなんて物を見た事が無いわ。」
「それに、ユニークも一品物だから、あまりお目に掛る事無いですね。博物館とか行けば、見れるかも。」
「そうすると、実質的には、レアとレジェンドって事ですか?」
「そうだな。儂が最高級の材料で丁寧に作り込めば、レジェンドレベルだな。何せ、儂、名匠だし。」
そうだった、ただのエロジジイじゃなかった。
「ま、評価が性能と一致してるわけじゃないからな。そこは気を付けろよ。使い手との相性とか、使い方の方が影響大きいぞ。」
つまるところ、“道具”だもんな、そりゃそうか。
「それに、このランク分け誰がしてると思う?」
「え?」
「そりゃそうじゃろ。誰かが決めなきゃ、ランクなんて分かれん。ランクの中に未識別ってのがあるんだから、そのくらい気が付け。」
「そっか。そうですね。で、誰が決めてるんです?」
「ひひひ、その話、長くなりますよ。ボルカールさんの恨み節も聞くことになるから。」
「おい!恨み節とはなんだ!至極真っ当な主張だ!」
「ちょっと待ってください。急いでますから次の機会にします。勉強になりました。ありがとうございました。・・・それじゃ。出直してきますね。失礼しまーす。」
「はーい、またのお越しを~。」
「待たんか!マヌケ。今度はちゃんとグラーシュちゃん、連れて来いよー!」
おいーっ!
アルディはよ!!




