第57話 悪巧みの後始末
放つことは無かった。
光どころか、うんともすんとも言わん。
ただの首飾りになってしまったようだ。
やっぱりか・・・
俺に付けたときは、光を放ったことから、仕込まれていた魔法が発動したんだと思う。
でも、エルンストに付けた時に無反応ってことは・・・どういう訳か、魔法が切れてしまったのかな。
1回きりの魔法効果が付与されたタリスマンなら、エルンストが絶叫するはずはない。
多分、永続魔法が掛けられた道具なのだろうと思う。
とすると、俺の“空”が何か影響しているのか・・・。
んー、マジで、自分の“空”が、何なのかが気になる。
おじいさんの言っていた「みーんな、死んじゃったー」ってのが、こういう自分で理解できない出来事の度に頭を過って、不安に襲われる。
たまたまこの世界に転生できたけど、次は無い・・・。
正直言って、侯爵ならまだしも、その付き人のことまでなんて、気にして居られないのよ。
「ルラン・・・様、もしよろしければ、この2人の処遇は私にお任せください。」
そうそう、侯爵がちゃんと面倒見てて欲しいわ・・・あ、いけね。
侯爵のお願いに返事して無かったな。
ふぅ。
タリスマンが発動しなかったからか、なんだか、白けちゃったな。
「もういいよ。」
「え?」
「2人の事は、任せる。」
「ありがとうございます。」
「あと、俺、怒ってないからね。ただ、色々聞き出したくて、つい悪ノリしてました。ごめんなさい。」
「え?・・・」
侯爵は狐につままれたようなマヌケな顔をしていた。
俺も、マヌケって言われる時、こんな顔してるのか。
だったら、注意した方が良さそうだな。
「何の続きだったっけか?代金貰って、ギルドカードの様なものを貰って・・・んで、タリスマンだったんか。これで今度こそ以上かな?」
「あ・・・、はい。」
侯爵は、執事と付き人を視線で御して、返事をした。
「良かった。ちょっと所用を思い出したから、俺、もう行くわ。」
「ちょっと待ってください。」
「侯爵、まだなんかあるの?」
「この2人はきちんと処罰をします。今後ともよろしくお願いいたします。」
「こちらこそよろしくです。ってのと、今まで通りで良いよ。マジで俺怒ってないから。」
「はい。」
「はいじゃないでしょ!」
「わか・・・った」
「それそれ。」
あれ?
何か肝心なことを聞きそびれているような・・・。
「そうだ!最後に1つだけいい?」
「何です・・・だ?」
「がはははっ、侯爵、いつの時代のキャラだよ。頑張れ!頑張って、いつも通りで頼むよ。」
「くっ・・・」
「ごめんごめん、俺のことが規格外だって思う理由を教えて。」
「あ・・・そのことか。」
侯爵は深呼吸をして、息を整え、いつもの雰囲気を身に纏った。
「まず、属性鑑定で“空”で魔法が使えないはずにもかかわらず、魔法のような特別な力を使っていて、それが想像をはるかに超える威力である事と・・・」
「うん。」
「あとは、使っている転移魔法が、理解困難な事・・・。」
「理解困難?」
「そう。2億トンの水を溜め込める倉庫・・・プールを持っている魔法使いなど、聞いた事が無い!」
そこか・・・。
ってか、侯爵、まじで、いつも通りになってきたじゃん。流石、政治家、一瞬で豹変したな。
良いぞ、その調子だ!
「それに、複数の転移魔法用の倉庫を持つ者もいるが、その総容積でも、200Mtの水を保管できるわけがない!」
「え、そうなの?」
「単純に考えて、あのダムのサイズを考えて見ろ!」
そうか・・・。
「百歩譲って、砂200ktが保管できる転移魔法用の倉庫を持っている者は、もしかするといるかもしれないが、水200Mtは完全に規格外だ」
「しかも、集めたのか海水なのに、納品したのは、真水・・・つまり、転移先で、錬金術も使えるとか・・・正直に言って、理解が追い付かない。」
「ごめん、錬金術って?」
「おま・・・」
侯爵の顔が、赤くなったのが分かった。
血行も戻って来たみたいで何よりです。




