第56話 魔王(他称)
タリスマンを付けられる前後の侯爵の言動から判断すると、エルンスト?侯爵の甥?の行動を、侯爵は知らなかったっぽいし、意に反していることが伺えた。
つまり、侯爵は、俺を服従させるつもりも無かったのは、これまでの言動から判断ができる・・・侯爵は、無罪放免?
だから、今回のタリスマン騒動は、エルンストの単独犯か?
エルンストは・・・俺の首にタリスマンを掛けて・・・あ!
俺の事、魔王とかって言ってたな。
「俺が魔王?」
「ルラン・・・様の、力が規格外なことから、エルンストが勝手にそう捉えたのかもしれません。」
「お前はそう思っていないと?」
「魔王は、確かに規格外の力を持っています。その1点は共通しますが、本質が違います。」
「魔王の本質?」
「私の魔王の捉え方は、本質的に“テロリスト”です。」
は?
魔王って、テロリストなの?
この世界の政治家の考え方ではってことか?
それとも、ミーヴ侯爵特有の解釈?ってか・・・。
「どういうことだ?」
「テロリスト、つまり、恐怖【terror】+人・専門家・主義者【ist】です。だから、規格外の力を示威的に使い、恐怖に陥れて、秩序を破壊し、自分本位に引き込む者という事です。」
な・・・るほど、なるほど。
付き人達は、俺の規格外の力に畏怖を感じてしまったから、魔王と称したって事か。
だが、できることなら、その規格外の力は利用したい・・・。
だから、支配してやろうと思って、レジェンド級のアイテムを持ち出して行使した・・・って流れか。
ん?
でも、その魔王の定義だと・・・
「規格外の力で、恐怖に陥れて・・・という定義だと、魔王は多種多様ということか?」
「はい。」
ますます、複雑だな。
変な話、例えば、グラーシュが力の弱い種族の集落に行って、暴力で恐怖に陥れて・・・
「私のいう事を聞きなさい!」って始めたら、魔王と言われるわけだ。
でも、色気で秩序を破壊したら、魔王にならない?
魔女とかって言われるのかな。
美魔女・・・。
なんか、しょうも無いおっさんたちが移住希望で集まってきて、それはそれで活気が溢れたりなんかして・・・。
じゃない!
すぐに脱線するのは、悪い癖だな。
今は、関係者の罪状認否だ!
執事は腰を抜かしてへたり込んでいたから、無罪かな。
もう1人の付き人は・・・分かっているようだったな。
敢えて手を出さず、エルンストの行動を容認し、侯爵のヘルプにも応じなかった。
事前に申し合わせがあったのが疑われるな・・・。
「お前は知らなかったし、俺を魔王とも思っていなかった・・・執事は無関係・・・すると、付き人2人か。」
さて・・・どうしたもんかな。
カムフラージュの為に、パチンと指を鳴らして、闇の粒子で作っていた膜を回収した。
「な・・・」
仁王立ちする俺と、その前で力無く座り込む侯爵を見て、付き人が声を漏らした。
「2人の処遇は・・・私に任せて下さい。」
すがるように俺に嘆願する侯爵。
別に俺、怒ってないんですけど。
自分のことがよくわかって居ないのに、他人のことを怒るの嫌いだし。
でもまぁ、もう少しだけこの状況を活用するか。
俺は唖然としているエルンストに近づいた。
「これは、お前に返しておこう、俺には過ぎた逸品のようだ。」
そう言って、エルンストの首に下げてやった。
「え・・・あ・・・ギャー!」
突然我を失って叫び出すエルンスト。
タリスマンが、再び光を・・・・。




