第54話 予想外の御礼
「いや、お前のそのバカげた力を巧みに利用して、この国をひっくり返すことができたら、変わるかもしれんな。」
「ははは。何言ってるんですか。」
そんな面倒くさいことする訳無いでしょ。
「そうだな、お前はそういうタイプではなさそうだな。」
「例えば・・・小さな農地を抱えて人知れず“まったり自給自足の生活”か、小さな集落で和気藹々と“のどかな田舎生活”を求めるんじゃないか。このところずっと一緒に居て、良く分かった。」
「話を元に戻すぞ。私が立場を追われる訳が無いと言い切れる2つ目の根拠、気になるだろ?」
そうだった。話が長かったから、もう一つあるって忘れかけてた。
「それは、私の所業だ。」
「所業?」
「お前も実感しているだろうが、ミーヴの住民は私のことが大好きだからな!」
一瞬、時が止まったように感じた。
「はいはい。分かりましたよ。でも、それは所業じゃないでしょ?」
「ははは、そうだな。ただ、見た目だけで好かれているわけではなく、私の取組が住民のニーズに合っているから、好かれるのだ。」
「そ・・・うですか。」
別に俺は見た目がどうこう言ってないぞ。
なんなら、俺は見た目だけ比較しても、侯爵もなかなかの美人って事は認めるが、圧倒的にグラーシュの方が良いと思うぞ。
グラーシュは、ちょっと露出が強めだから、好みの分かれるところだろうけど。
「それに思い切りも良い。ダム建設も、周囲からは建設から稼働まで10年はかかると言われていなのに、建設完了まで2年、稼働のための水は、もう集め終わった訳だ。これではまた評価されて、人気が不動のものとなるな。」
それ・・・イレギュラーな俺の登場の御陰ですやん。
でもまぁ、思い切りの良さは、ここのところ一緒に居たから、よくわかる。
しかし、この人は、本当に大丈夫だろうか。
まぁ・・・1つ目の理由は、確かにその通りだろうと、何となく分かる・・・。
2つ目の理由は、何とも言えないなぁ。
ともかく、このカードが使えるうちは大いに使わせてもらおう。
「御代と、このカードで、以上ですよね?」
「ちょっと待てルラン!まだ話は終わってない。特に2つ目についての説明は、これからだ。」
「いえいえ、大丈夫です。なんなら、2つ目の部分が特に大丈夫です。今日のところはお腹いっぱいです。またお時間のある時にたっぷりお聞きしますのでね。」
侯爵はまだ話足りない様子だったが、ルーロックに残した仲間のことが心配だから、話を切り上げようとした。
「ちょっと待ってください。侯爵からは以上ですが、私どもからもお礼の品がございます。」
付き人さん達から?
「お礼を頂くようなことしましたっけ?」
「本来であれば、ダムのゴブリンと鬼士燃刃の件で、侯爵の安全は私どもが確保しなければならなかったのですが・・・。」
そう言うと、前に立っていた付き人がズボンのポケットから首飾りの様なものを取り出した。
「頭をおさげください。」
言われるがままに、頭を下げると、その首飾りを掛けてくれた。
「なんです、これ?」
おもむろに手に取って見た。
ゴールドメダル?
「タリスマンです。」
付き人が笑顔で答えた瞬間、強い光を放ち始めた。
光は次第に、暴れ始め、四方八方に光の筋が伸びた。
「ちょっと待て!エルンスト!貴様何をした!」
侯爵が、付き人を突き飛ばして、駆け寄ってきた。
暴れる光を浴びながら、必死に俺からタリスマンを引き離そうとしている。
しかし、タリスマンは、首から外れない。
「やりました!侯爵!これで魔王は侯爵の・・・叔母様の支配下です!」
脇で、勝利を確信したように笑う付き人。
「うっ・・・ううっ・・・あうう・・・ぐっ・・・がはっ!」
「ルラン、しっかりしろ!おい、何とかしろ!これを外せ!早く外せ!」
俺のうめき声に、必死にタリスマンを掴んで引き離そうとするミーヴ侯爵。
執事は腰を抜かして座り込んでいるし、付き人は二人とも静観しているだけだ。
「俺・・・を・・・俺を・・・はめ・・たな・・・、許さん・・・ぞ・・」
俺はゆっくりと左手を挙げた。
床から湧き出た大量の闇の粒子が俺と侯爵を飲み込んだ。




