第50話 タッチアンドゴー
馬車に揺られ始めると、また眠気に襲われた。
襲われると言えばば、馬車に乗ると、やたら襲われる気がするなぁ。
俺が常に警戒態勢で引率している訳じゃないってのと・・・
馬車に乗って人任せになっているってのと・・・
馬車が走れるところは限られるから、襲う側も張り込みしやすいって感じか。
そんなことを考えながら寝たせいで、また襲われるんじゃないかと、時々起きてしまった。
朝日に照らされた侯爵は、酷く疲れた表情をしていた。
ほとんど寝れなかったようだ。
意外と気が小さいのかな。
いや・・・自分で戦う事ができないということは、そう言う事かもしれない。
疲れが蓄積している御様子で、質問合戦2日目をやるような雰囲気ではなかった。
「おはようございます、侯爵」
「お前は、図太過ぎるだろ。信じられん。この状況下でよくイビキをかいて爆睡できるな。」
「え?そんなに寝入ってました?」
「こんのっ・・・って、相手してやるほどの気力も無いわ。私はまだ寝るぞ。おやすみ。」
侯爵は、ローブのフードを目深に被って日差しを遮り、また寝始めてしまった。
ここまでヘロヘロになっていると、今夜も夜通し移動するって事は無さそうだな。
ホテルに泊まってしっかり疲れを取るべきだ。
俺もその方が嬉しいし。
しかし、夕方着いたホテルでは4時間程度の休憩を取るだけで、また走り出した。
侯爵は、3日目の朝には帰城させるつもりのようだ。
その気持ちは分からんでもない。
半日短縮したところで、あまり変わらないからな。
何としても1日稼ぎたかったのだろう。
そして、その侯爵の思いに応えるように、限界を迎えつつある馬車と騎馬は奮起し、3日目の朝、無事に帰城できた。
「ルラン、代金の支払いだが、準備に時間がかかるから、自室で待機な。用意が済み次第、迎えをやる。」
「了解です。」
200億Yもの代金だ、当然そのくらいはかかるよな。
俺はあてがわれた部屋に移動した。
さて、グラーシュ達の様子はどうだろうか。
“”アルディ、エレナ、様子を教えてくれるか?“”
“既にマサオの村に入っていますが、特段、動きは有りません。”
2人に送った思念に対し、エレナから返信が届いた。
“動きが無い?マサオが1人で訴えに出るくらいだから、ダークエルフ襲来は大事だと思っていたのに、そうじゃないの?”
“それが、ダークエルフ討伐に積極派と消極派が衝突してて、ミーヴへの正式な討伐協力要請が作れていない状況のようです。”
もしかして、それに耐えかねて、マサオが飛び出したのか?
“しかも、積極派も主張がまとまっていないようです。”
なんじゃそりゃ。
“ダークエルフ側の動きは?”
“1回襲撃がありましたが、今のところ沈黙しています。”
襲撃あったんだ・・・。
“どんな襲撃だったの?”
“それが・・・積極派のみを標的にした限定的な攻撃でした。”
はぁ?
なんか前後してないか?
“ダークエルフ討伐の積極派は、ダークエルフが出た後に生まれた派閥・・・だよね?”
“えぇ。そのはずです。”
という事は、その積極派は何かしらの傾向のある派閥で、その傾向のせいでダークエルフが生まれて、今はダークエルフ討伐の積極派?
かー。
こういうややこしい問題に首突っ込みたくなかったのにな~。




