第49話 寝起きでいきなり
馬車の激しい走行音に、ふと目が覚めた。
目を開けて真っ先に視界で捉えたのは、頭を抱えて伏せている侯爵と、それに覆いかぶさっている付き人の姿だった。
「何とも過保護なお休みの仕方ですね。」
「ルラン・・・こんな時に何を・・」
「それに、ずいぶん飛ばして下さっているみたいで、この調子なら、かなり時短できそうですね。ってか、馬車が持ちますか?」
「バカもーんっ!!敵襲だ!敵襲!」」
「え?敵襲?あれ、今街中走ってますよね?」
窓から外を見ると矢が飛んできた。
幸いにも、馬車を飛び越えて行った。
「うおっ!」
咄嗟に頭を下げた。
何がどうなってるんだ?
馬車は走ったままだ。
ゴブリンって疾走しながら弓を射れるんだっけ?
周囲に光の粒子を散布!
――!
人?
しかも40人位の騎馬に追われてるじゃん。
「強盗・・・団?」
「そ・・・そのようだな。あの割れたザクロにナイフのマークは、“鬼士燃刃”とかいう非道な強盗団で撲滅対象だ。頭目を含めて、ほとんどの構成員が指名手配中で、いわゆる“デッドオアアライブ”だ。」
「ほう・・・ご自慢の騎兵隊で撃退はしないんですか?」
「多勢に無勢だ。」
「このまま逃げ切る感じですか?」
「いい加減にしろ!お前のそのバカげた力で、何とかしろ!!」
なんとかしろって、相手は人間じゃん・・・。
「いいの、殺っちゃって?」
「さっきも言っただろ、デッドオアアライブで指名手配中の者ばかりだって!」
そう言う事か。
「それじゃあ、この分の報酬も楽しみにしてますよ!」
おもむろに仕込み杖をローブの下から取り出した。
「なんだそれは?」
「秘密兵器です。」
「ひみ・・・」
侯爵は呆れた顔でこちらを見ている。
侯爵、悪いけど相手をしてあげられないんだわ。
さて、相手が人なら亜音速弾で十分だろ。
弾丸は・・・砂が余ってるし・・・先はピンピンに尖ったガラス製だ!
窓から身を乗り出して・・・
発射!
ギャー!
ドサッ!
後続の鬼士燃刃が1人、また1人と悲鳴を上げて落馬していく。
発射音も無ければ、反動も無い。
おまけにマイール山で嫌というほど実戦経験を積んでいるから、撃ち慣れている。
あっという間に、強盗団の気配が無くなってしまった。
「侯爵、過保護なお休みのところ、すいません。終わりましたよ。停車させて被害確認した方がいいのでは?」
「!?・・・言われなくてもわかってるわ!」
侯爵の指示で、馬車が止まり、騎馬隊の数が確認された。
その後、騎馬隊の一部と付き人に、鬼士燃刃の状況を確認するように指示が飛んだ。
来た道を戻って確認作業が始まったが、程無くすると、合流した。
「鬼士燃刃、全滅していました。」
「分かった。」
「騎馬隊の一部は、地元警察との後処理の為に、指示を出して現場に残しました。」
「うむ。それでは移動を再開するぞ。」




