第43話 侯爵と問答 その3
「いいだろ!質問したって!」
馬車という限られた空間にもかかわらず、侯爵は身を乗り出してきた。
プレッシャーをかけたつもりだろうが、その所作とは裏腹に、甘い香水の香りがふわっと漂ってきた。
「いいですけど、分からない事もありますからね!」
俺、こっちに転生して、まだ日が浅いんだから、お手柔らかにお願いしますよ。
いかん、つい譲歩してしまった。
「そうだな・・・そしたら・・・」
・・・
何この沈黙、ドキドキするやん。
・・・
「お前の力は何だ?」
「え・・・」
「先日の海坊主の時と言い、ゴブリンと野犬の時と言い、むちゃくちゃだ。」
「そんなことないですよ。」
「いや、どう見ても、常軌を逸している。」
俺はこの世界に来て間もないし、魔法も使えてないから、この世界の“常軌”を知らんからなぁ。
逸してるのか、乗っているのか、反りくり返っているのか全然分からないけど。
でも、シーデリアの4大領地の1つを統べるミーヴ侯爵閣下がそう言うなら、そうなん・・・かな。
それとも、この話の流れなら、ちゃんと説明しなきゃならないだろ!って俺に強いている可能性もあり得るか・・・。
「本当に申し訳ないですけど、よくわからないんですよ。」
「はぁ、お前なぁ。まぁ、いい。分かったら教えてくれ。」
緊急事態下の問答で懲りたのかな。
それでも、侯爵の立場にありながら、力づくで答えさせようとしない部分は、好感が持てるな。
こういう時は、テンポよく次の質問を投げた方がいい!
ってなわけで・・・
「ここだけの話なんですけど、私、ニュームスが上手く見れないんですよ。」
「はぁ?」
侯爵は、眉を寄せて、だらしなく口を大きく開けて、見たくも無い呆れ顔を見せてくれた。
なんか、中学生の時に新聞読まないってクラス担任に言った時のリアクションを思い出してしまった。
だって、新聞、何言ってるか分からないんだもん。
読んでると急に結論が出て来て、ついていけなかったんだよね。
え?なんでその結論になるの?って。
俺は、新聞を買って読んで居るってのに、新聞記者に置いてけぼりされているようで、挑戦するたびに悲しくなってさ。
いつしか読むのを辞めた・・・。
今思えば、俺の知らない、書くのもバカバカしい新聞を読むのに必要な“当たり前”ってのが存在してて、それを俺が持ち合わせていないから、結論に突然ジャンプしていたように見えてたのかもしれない・・・
ん・・・待てよ。
もしかして、そう言う事?
俺がこの世界の“常識”とされるものを持っていないから、ニュームスが読めないのか?・・・
属性か?
“空”だから読めないのか?
でも、複数人数で見るタイプの奴は、グラーシュと観れたような気がするけど・・・。
「おい、何やら考え事をしているところ悪いが、ニュームス・・・、はっきり言って、ほとんどのニュームスは見る価値など無いぞ。」
「えーっ!?」
「ぷっ。変な声を出すな!」
侯爵からの予想外の発言に、上ずった声が出てしまい、不意に笑いを誘ってしまった。




