第42話 侯爵と問答 その2
日が昇る前に、グラーシュ達は出発した。
侯爵達に、とやかく言われて邪魔されるのが嫌だったから、俺が出発を促したためだ。
転生した直後の・・・、グラーシュが買い出しに出て、裏山に散歩に行った時以来の“独りぼっち”だ。
今思えば、転生直後は美人に耐性が無くて、グラーシュとどう接したらいいのかと困惑ばかりしてた。
今もふとした瞬間に圧倒されて困惑することはあるけど、正直言って、一緒に居たい願望の方が強いもんな。
グラーシュだけじゃない、アルディもエレナも居ない。
個性的な召喚馬も居ない。
しかも、昨晩は白と黒の世界にも行けなかった。
冬はまだ先の筈なのに、随分と冷える朝の様な気がした。
早くおカネ貰って合流しよう。
そう心に決めて、足早にダムの管理人室に向かった。
「おはようございまーす!」
「ルラン、遅いぞ!」
部屋の奥に座して紅茶を嗜む侯爵に一喝された。
「すいません。」
「他のメンバーはどうした?」
侯爵は、紅茶の水面に視線を落とし、香りを楽しみながら問うてきた。
「マサオを送るために、山に入りました。」
「そうか。」
侯爵は、ゆっくりと紅茶を口に含み、一言だけ返事を返してきた。
あれ?
「良かったですよね?」
「ん?別にいいんじゃないか。」
「気になります?」
「別に・・・」
そう言うと侯爵はカップをテーブルにしずかに置いた。
これは、ちょっと気になってるな。
まぁ、いいや、からかう前に言わなきゃいけないことあるし。
「侯爵、すいません、馬をマサオに貸してしまったので、帰りの馬車に乗せて貰えますか?」
「全く、図々しい奴だな。」
いいじゃん、座席スペースは有るんだし、それに、気分転換して欲しいんでしょ?
「まぁ・・・良いだろう。」
「ありがとうございまーす。」
ってか、何を偉そうに返事してるんだ、嬉しいくせに。
これで、この3日間は、侯爵と同じ馬車で移動して同じ宿泊先に泊まることになるけど、どうやって過ごそうかな~。
その前に、念のため・・・
「さっきの話の続きですけど・・・どうしてマサオを集落に送る件、見逃してくれたんですか?」
「別に、良いんじゃないか。何ならそのままダークエルフの一件を片付けてくれてもいいぞ。」
怖いくらい態度が柔軟だな。
「どうしてまた・・・」
「まだ正式な依頼が来ていない段階なら、報酬も発生しないだろ。ローコストどころか、ゼロコストで解決されるわけだ。理想的じゃないか。」
く・・・そっちか。
“あとは上手いことやっておくから、気にせずやってくれ。報酬も含めて悪いようにはしないぞ。”ってのを期待していたのに。
「いいだろ!砂の代金に、水の代金が加わって、お前たちは、間違いなく大金持ちになる訳だから。」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだろ。どちらの代金も、かなりデカいギルドが全員で取り組むか、手練れの冒険者で一個大隊を組んで取り組んだ場合の大型案件くらいあるぞ。」
そうだったのか・・・。
この世界の物価や相場が分からないから、判断が出来なかった。
でも、この世界で非日常的な大きなこと・・・
例えば、他の国に行くとか、爵位を貰うとか、ギルド作るとかをしようとしたら、足りないかもしれないよな~。
「個人的には、稼げるときに稼ぎたいんですけどね。」
前世では、貧乏サラリーマンだったから。
「ふん、まぁ、好きにすればいい。お前たちの稼いだカネだ。」
「さて、今度は私から良いか?」
「え?」




