第36話 詰問よりも
「な・・・。お前はダークエルフの事を知らな過ぎる。その楽観的で安直な判断は、理解できん。」
まぁ、確かに、孫氏の兵法書の一節に、彼を知らずして己を知らば一勝一負すってあったな。
確か、対戦相手が分かっていないと自分の現有戦力を熟知してても、勝ったり負けたりする・・・だったかな。
まぁ、でも、大勝ちする為に、グラーシュとアルディを送り出したわけじゃないし。
なんなら、逃げる少年と合流してそのまま逃走するわけだから、勝っているようで負けている訳だから、何とかなるんじゃね。
要するに・・・
「仲間を信頼しているという事ですよ。」
「そうか。」
分かってくれたと思いきや、侯爵は首をかしげている。
「最後の質問だ。分身を飛ばしたな。あれはどういう芸当だ?説明しろ。」
「最近できるようになったんですけどね。分身体を作るじゃないですか。で、それを飛ばしたんです。これが思いのほか便利でして・・・。」
「ふざけるのも大概にしろ!!それを説明しろって言ってるんだ!」
「いや~、企業秘密です。」
「企業秘密?お前・・・真面目に話す気が無いだろ!」
「いや、至って真面目ですけど・・・。」
ってか、企業秘密って言われたら、それ以上聞いちゃいけないの知らないのか。
いや、知らないよな。
ん-、なんて説明したらいいんだろう・・・。
「ふん。もう良い。真剣になっている自分が馬鹿らしくなってきたわ。帰ってきたら、グラーシュから話を聞くことにする。」
「すいません。」
「よっぽどグラーシュの方が話ができるし、帰り道も時間はたっぷりあるからな。この唐変木・・・。」
そう言うと侯爵は背中を丸めて焚火に当たり始めた。
ちょっと聞き逃せないフレーズもあるが、言い返す必要もない。
矢継ぎ早に質問をぶつけられると覚悟していたが、なんとかやり過ごせた。
もっと気持ちよく終わりたかったが、緊急事態だし、説明困難な質問ばかりだったから、仕方ない結果だと割り切ろう。
この野営を片付けて、急いで追いかけねば。
侯爵の様子が気になって、片付け始めた手を止めて視線を送ると、意気消沈の侯爵をストークが宥めるように顔を近づけていた。
焚火の柔らかい炎と、ストークの真っ白で優しい毛並みの感触に、気持ちの切り替えができたのか、侯爵も積極的に撤収作業に加わってくれた。
今は俺を詰問し続ける状況でも凹んでいる状況でもないって、わかってくれたのだろう。
まとめた野営セットに布を被せてカムフラージュしつつゲートに収納した。
残り火で、目を見開いてポカーンと口が開いてしまった侯爵の顔がうっすら見えたが、薄明りの中を質問が飛んでくることは無かった。
俺がエラムに、侯爵とエレナがストークに乗り、いざ出発!




