第34話 緊急時の難しさ
暗闇の藪の中を、手や足の擦り傷も顧みず、必死で走るエルフの少年の姿が見えた。
その少年を、ナイフや弓矢を手にした複数のダークエルフが追撃している。
厄介事、もう始まっちゃってるじゃん?
あーっ、勘弁してよ!
「グラーシュ、起きてるー?」
俺は急いでキャンプに戻って声を上げた。
「はい。」
返事がした方を見ると、グラーシュは、明日の準備をしていた。
真面目でよろしい!
「ごめん、今から・・・」
「なんだ、騒々しい!!」
でぇーっ、侯爵、居るんだった。
ってか、疲れているんでしょ。
下々の御戯れに、なんで起きてくるのよ!
首をトーン!ってやって気を失わせることが、俺にできたら絶対やってたわ。
って、四の五の考えている場合じゃない!
「侯爵、緊急事態なんで、すいませんね。グラーシュ、悪いけど今からオルフに乗って、エルフの少年を助けに行ってほしい。」
「1人でですか?」
「いや、アルディと一緒に!俺は分身を飛ばすから先に着くと思う。」
「先に?」
「うん。」
「分かりました。」
グラーシュがいつもどおり理解を止めて納得してくれた直後に、柔らかな光を放つ分身体を創り出した。
その直後、音も立てずに分身体は少年の下へ飛んでいった。
夜空に、分身体から伸びる僅かな光の筋が残っていた。
「助けに行くのは、あの光の先のダムの淵で逃走中の・・・」
「おい、ルラン!今何をした!」
「ちょっと、待ってください!緊急だって言ったでしょ!」
「む・・・」
「エルフの少年は、多分だけど、ダークエルフっぽいのに襲われているんだわ。しかも複数居る。」
「ダークエルフだと!?しかも、複数!?」
「侯爵っ!」
「す、すまん。」
「俺たちも、ここを片付けたらすぐに向かうから!」
「それなら、ルラン様も・・・」
「大丈夫、俺はもう・・・ってか、そろそろ、エルフの少年とコンタクトできるはず。」
少年が俺を味方と認定してくれるかは自信がないけど。
「分かりました。」
「質問は?」
「少年の助け方は?」
「そうだね。とりあえず、ダークエルフのことが分からないから、少年保護が最優先で、ダークエルフへの攻撃は最低限にして。」
「はい。」
「とにかく、ダークエルフを殺すのは無し!」
ダークエルフの爆散遺体も、ダークエルフの返り血を浴びたグラーシュも見たくないし。
「それと、保護した少年の希望を聞いて対応してね。集落に戻りたいなら送るとかね。」
「分かりました。」
「ごめんね、話が上手くまとまってなくて。」
「大丈夫です!」
「じゃ、よろしく!少年の大体の位置は、アルディが分かるはずだから、先頭はアルディで。」
「御意」
グラーシュはオルフに乗って、ネロアに跨ったアルディと現場に向かった。
その直後に背後で大きな嘶きが聞こえた。
振り向くと、エレナに手綱を引かれたストークが、今にも噛みつきそうな顔で俺を見下していた。
グラーシュに置いてかれて、お怒りの様子だ。
緊急事態なんだよ、ごめんな。
見るに見かねて、侯爵が近づいき、ストークの顔を撫でながら、話しかけてきた。
「そろそろ、お前の言う緊急事態とやらの詳細を聞かせて貰おうか。」
「先ほどは、すいませんでした。」
「いや、いい。ルーロックのエルフはミーヴの協力者だ。その少年が今まさに襲われているのならば、その救出が最優先なことに異論は無いからな。ただ・・・」
「何です?」
「うーん、わからんことだらけだ。まずは、きっちり説明してもらうぞ。」
怖いなぁ。
「お手柔らかにお願いしますね。」




