第33話 伐採の心労
「ルラン、何をするんだ?」
「何って、さっき言ったでしょ、木ぃ、切りに来たんですよ。」
「木?」
「とりあえず、侯爵は見ててください。」
「うむ」
「グラーシュ、やって良いのどれ~?」
「ちょっと待ってくださいね。」
・・・
「それです!」
グラーシュが指を差した木に近づき・・・
あぶなッ!
侯爵、めっちゃ見てるし。
カムフラージュしないと!
まずは、来ていたローブの中で、闇の粒子製の斧を成形して取り出す。
次に、ローブを木の根元に着せるように巻き着けて、袖で結ぶ。
後は、ローブの下を斧で・・・。
「ふんっ!」
「ふんっ!」
少しずつ傷が付いて行く立木。
何やってるんだ俺・・・。
「何やってるんですか、ルラン様・・・」
「え?いつも通り、木を切ってますが、何か?」
すかさず、グラーシュにウィンクでサインを送った。
「あ、すいません。」
いや、グラーシュ、その返事は、マズい。
俺の後頭部に、侯爵の視線が刺さったのを感じた。
こういうのは“空”でも、痛いくらい分かるんだな。
これは・・・方法を変えるしかなさそうだ。
「グラーシュ、そろそろ飯になると思うし、遅くなっちゃうからさ。先に、切っていい木だけ教えて。痕を付けておいて、食事の後にでも順に切って回るから。」
「分かりました。」
ローブを着て、斧を収納し、ダガーに持ち替えて、グラーシュの示す立木に傷をつけて回った。
・・・
「こんなもんでいいよ。キャンプに戻ろうか。」
「はい。」
20本くらいになったところで、引き上げた。
野営地に戻るまで、侯爵の疑いの目を痛いくらい感じた。
カムフラージュ失敗すると、疑惑が深まるだけだな。
ていうかさぁ、初めから疑われてる状態でカムフラージュしたって上手くいくわけないじゃん。
・・・
無事に食事を済ませた。
「今日は楽しかったぞ。明日は帰るだけだな。お先に。」
そう言うと、侯爵はいつもと違う刺激に疲れ果てたのか、すぐにテントに入ってしまった。
俺は、侯爵のテントが寝静まるまで焚火に当たりながら待ち、改めて痕を付けた木を伐りに戻った。
いつも通り根元にゲートを展開して、自由落下する木を回収した。
音もたてずに回収できるから、侯爵を起こすことも無いし、何より楽ちんだし・・・。
あっという間に予定していた20本を全て回収した。
吸収したらすぐに処理!・・・だったな。
まずは乾燥して、加工して、棒材と枯れ葉をストックっと。
今度は、先生がダイヤモンドにしようとしたら阻止せねば。
次は・・・ルーロック山の偵察かな。
やっと、メインタスクに取り掛かれるわけだ。
よく辛抱した!
自分で自分を褒めてあげたい。
転生してからこっち、俺を褒めてくれる存在なんて・・・
それはそれとして・・・
光の粒子!散開!
・・・
んー!
この山には褐色の肌のエルフが居るのか。
まさか、世に聞くダークエルフっちゅうやつか。
暗い中で偵察しているせいか、はっきりとは分からないけど。
でも、なんだろう。
ダークエルフだけの小さな集まりは、他のエルフの集落から離れたところにあるなぁ。
それに、単に狩りをして山で自給自足するだけする割には、武器のストックが多いような。
もしかして、これヤバいんじゃないか。
見ちゃいけないものを見てしまったような気がしてきた。
なんか・・・マイール山はエルフ対暴走しているゴブリンとオーガって割と単純な構図だったけど。
もし、エルフ対ダークエルフだとしたら・・・すげぇ嫌な予感がする。
杞憂だといいんだけど。
まぁ、でもあれか。
ルーロック山の住民が、自分たちで解決する問題なのかな!?
きっとそうだ!
そうに違いない!
ってことにして、とりあえず、明日の帰り道の確認をしよう!
ダムを回って最奥まで来たんだから、せっかくだし来た道じゃなくて、ぐるっと回って帰りたい。
帰り道は、どんなかな~・・・・。
散開していた光の粒子を、帰り道の偵察に当ててみた。
――!
ちょっ、ちょっと待った、ちょっと待った。
どーなってんのよ!




