第29話 再会は刺激的
ダムでの泊まり込みや接待なんて想定されていないから、ダムの仮眠室はスタッフ用のものしかない。
侯爵が施設を利用し、運悪く溢れたダムのスタッフは、しぶしぶ野営をしていた。
もちろん、俺たちも野営だ。
当然と言えば当然か。
何せ、侯爵はもとより、ダム関係者は基本的に納品先のお客様だからね。
それを差し置いて、「仮眠室使わせろ!」とは言えない。
道中、侯爵家御用達のホテルに一緒に泊めて貰えたのは、間違いなく納品してもらいたいという思いからだったのだろう。
ともあれ、ここには宿泊施設が、無いんだから仕方ないよね。
おかげで、久しぶりに、4人だけの野営だ!
しかも、侯爵たちのいるダムから離れて設営することで、かなり気楽に過ごすことが出来た。
山でのキャンプは、やっぱり、こうじゃなくっちゃな~。
注水が順調なこともあって、緊張感が抜け、疲労感が睡魔を連れて押し寄せてきた。
「ごめん、先に寝るわ。あとは好きにやってね。」
「はい。」
テントに入ってゴロン。
気を失うように寝入ってしまった。
・・・
・・・・・
気が付いたら、いつもの白と黒の世界に立っていた。
あれ?
てっきり侯爵から報酬を受け取って、今後の侯爵との距離感を上手く構築しないと、来れないと思っていたのに・・・。
ん?
ってか、おじいさんと先生の姿が見えない。
「危ないかもしれんぞ。気を付けた方がいいかもしれんぞ。」
右の方から、おじいさんの声が聞こえたような気がして、顔を向けた。
少し離れたところで、フクロウを抱えながら、こちらを見ているおじいさんの姿が見えた。
「そんなところで何をして・・・」
ビターンッ!
音共に、俺の視界がブレると同時に、舌を噛み、残った衝撃で前に転びそうになった。
後頭部に何か当たったようだ。
ちょ・・・痛いし、クラクラするし、なんなん・・・。
振り返ると・・・
ビターンッ!
今度は顔面で受けて、そのまま尻餅をついてしまった。
な・・・なんだ?
当たった物を手に取って見ると・・・な・・・生肉?え?なんで生肉?
「気持ち悪っ!」
咄嗟に投げ捨てた。
「こっちのセリフだ―っ!!!!!」
顔を向けると、烈火のごとく顔を赤らめた先生が仁王立ちしていた。
は!
ゴブリンと野犬の・・・
「ふざけんじゃないわよっ!!!こんな気色悪いもの吸収して!!」
3つ目の生肉の固まりが飛んできた。
しかし、俺の顔を見て怒りに打ち震えて、力みまくっているせいか、コントロールを失っていて、幸いにも外れた。
「しかも、吸収したまま放置しやがってっ!!何、考えてんのよーっ!」
4つ目も飛んできた。
こ、怖すぎる・・・。
生肉を投げ散らかしてくる激昂した女性なんて初めてだ。
どうしたらいいんだ?
こんな説教を受けた事が無いから対応が思い付かない。
「ごめんなさい。私に落ち度があります。先生は何も悪くないです。とりあえず、生肉を投げないでください。」
なんなんだよ、このお願いは。
言ってて情けなくなってくるわ。
「フーッ、フーッ・・・」
全然、怒りが収まらんやん。
「でも、ほら、生き物は吸収して無いじゃないですか。」
「生き物の一部ならいいと思ってんの!」
「あ、いや・・・ちょ・・・待って。」
「そうじゃ、そのままじゃ、話にもならんぞ。ちょっと落ち着け!」




