第28話 行き先のひとつ
作業は概ね順調だった。
途中、俺が放水ポイントに選んだところが、管理責任者からの指摘で別のポイントへの移動を余儀なくされたこともあった。
しかし、俺はダム初心者だから、指摘は素直に聞き入れて対応した。
その姿勢が喜ばれたのか、基本的に協力的だったことが奏功した。
余りに順調に水の放水が進むもんだから、ついつい調子に乗ってしまって、最後の1袋は、盛大にアーチを描くように放水してみた。
前世で、雨上がりに散歩するときは、決まって太陽に背を向けて虹を見つけて遊んでいたのを思い出してしまったからだ。
狙った通り、虹が現れた。
グラーシュはもとより、侯爵も手を叩いて喜んでくれた。
「次の職場は、ミーヴ侯爵領内の消防署だ!」とか言われるんじゃないか。
俺の場合は、火事の現場に駆け付けたら、放水するより、熱エネルギーだけを吸収した方が早そうな気がするけど・・・。
我に返って、袋を地面に配置して、放水開始!
無事に全員ダムから上がった。
「これで作業完了。あとは、3日掛けて満水にするだけです。」
「よろしい!注水量の見込みはどの位だ?」
「お約束通り200Mtです。」
「ふふふ、3日後が楽しみだな。」
「侯爵、納品完了までの時間は、フリーですよね?」
「そうだな。納品さえ滞りなく進み、予定通り完了さえしてくれれば、何をしてくれても問題は無い。」
良し!
運よくというか、何の因果か、ルーロック山に入れたわけだ。
時間に限りがあるが、明日からの自由時間で、エルフの集落を探して尋ねてみようかな。
確か、一番南の集落で・・・マサオを訪ねるんだったな・・・。
一番南?
このダムはルーロック山の南から入った。
ダムって、山間の集落潰して作るイメージあるんですけど・・・。
思い返せば、ダムの底は少し開けていて、平地が多かったし・・・。
景観が良かったのは、人の手が少し入って、綺麗に整備されていたからか?
まさか・・・。
「侯爵、このダムって、集落潰して作ってないですよね?」
「ん?・・・エルフ全員には円満に立ち退いてもらったと聞いているが、どうかしたか・・・。」
ま・・・まじか・・・。
上手い事、ルーロック山で風の加護を受ける流れが・・・振出しに戻ってしまった。
じゃない!
ルーロック山のエルフを見つけたとして、自己紹介どうするの。
「あぁ、その集落は俺が水の底に沈めました!」なんて言えん・・・。
どーすんのよ、マジで。
風の加護どころか、風の呪いとか受けるんじゃないの?
やらかした・・・。
・・・
凹んでいても仕方ない。
人間万事塞翁が馬!
極端なことを言えば、エルフに会って、集落を返せ!って言われたら水を全部回収すればいいだけだし。
で、侯爵になんか言われたら、「俺がいつでも200Mtの水をお届けするんで!」って言えばいいだけだし・・・。
うぉー!
絶対に、風の加護は諦めんぞぉー!




