第27話 肝心な注水準備
くっ・・・。
使いようが無い場所だったから、ダムにしたんじゃない!
ダムを作って都合がいい場所を選んで、ダムにしてるんだ!
こういうことになるのは、無理もない事なんだ・・・
この場に立ってから、前世で楽しく登山してたことまで思い出すなんて。
「ちょっと、ぐるっと回ってきていいですか?」
「ダメだ!早く取り掛かれ!」
「だから!取り掛かるための状況確認ですよ。俺は今日、ここに初めて来たんですよ!」
上からくる侯爵・・・ってか、取引先に、腹が立って、強く出てしまった。
ホント、転生後でよかった。
転生前に働いていた会社の営業方針は、「お客様は絶対神!」だったから、自分を出す事なんてさせて貰えなかった。
そんなことしたら、上司のパワハラの火に油を注ぐ事になるからだ。
でも、ここでは出来る、否、出来た!
完全に蓋をされていたあの頃から、変われたことに気が付けて、ちょっと良かった。
まぁ、自分を出すのはほどほどにした方がいいと思うけど。
グラーシュにお願いして、一緒に散歩して貰った。
侯爵の目も有って、お願いしたときには気まずそうだったけど、振り切って付いてきてくれた。
グラーシュの御陰もあって、しっかり、景色を脳裏に焼き付けることが出来た。
「グラーシュ、ありがとうね。」
笑顔で返してくれたおかげで、いい思い出になった。
良し、戻ろう。
・・・
侯爵たちの居る地点に戻った。
「できそうか?」
先に口を開いた侯爵からは、譲歩の姿勢が見えた。
どうせ、直前に見せたゴブリンとの闘いで、驚いてしまった自分に腹を立てて・・・。
何とか俺を尻に敷こうとして強く出たら、噛みつかれてしまい、考え直して方針転換をした・・・
ってところかな。
力で何とかしようとするから、自分が力に屈することになるんだよ。
侯爵・・・分かってないなぁ・・・。
じゃなくて、分かっていても、変われないでいるのかな。
俺が散策に行くのを無理に止めることもできただろうけど、そこを抑えて、心の準備の時間をくれた侯爵にも感謝・・・しとくか。
「お待たせしました。取り掛かりますね。」
ローブの下から革袋を取り出した。
侯爵らは革袋をチェックする様子を見せなかった。
直前のゴブリン殲滅戦の余韻が、躊躇させたのかもしれない。
まぁ、その隙を与えるつもりもないけどね。
しわの無いように広げ、袋の口をダムの下流に向けて、配置した。
さて、内側を光の粒子でコーティングして、強化も完了・・・
いざ、放水開始!
ゴォォォォォォ!
物凄い音と共に放水が始まった。
袋が破ける様子も無いし、放水は順調だ。
良し!
放水止め!
「ルラン!なぜ止めた?」
侯爵が怪訝そうな顔で問うてきた。
「ここはダムの最深部だから、10枚設置します。放水音で話が出来なくなると思うので、放水が出来そうなのを確認した上で、一度止めました。」
「そ・・・そううか。」
「10枚設置して放水を始めたら、すぐに移動を開始します。以後は俺に付いてきてください。」
「分かった。その前に・・・」
そう言うと侯爵は放水された場所を指差して、管理人に指示を出した。
管理人は、水に近づき、指に付け、ペロッと嘗めた。
続けて試験紙を取り出してチェックを始めた。
そういえば、納品前にサンプルの提供してませんでしたね。
ゲート内の闇の空間で行わる蒸留作業を全幅の信頼を寄せて、一切の疑いを持っていないのは、俺だけで・・・
むしろ他の人は、属性も能力も“空”の俺に対し、疑いしか持っていないことを、すっかり忘れていた。
お手数おかけしました。
予定していた試験が済み、侯爵の下に走り、報告が済んだ。
「良し、ルラン、やってくれ。」
「それでは、本格的に始めますね。さっきの下見で配置する場所を見当付けていますので、どんどん行きますよ~。」




