第25話 緊急殲滅戦開始
急いで侯爵の馬車に近づいた。
「ミーヴ侯爵!この先にゴブリンっぽいのが200くらい、野犬か狼を連れているんですけど!」
バーン!
凄い勢いで馬車の窓が開いた。
「本当か!」
「侯爵、そんなに乗り出さないでください。」
執事が慌てて侯爵を抑えるが、侯爵は意に介していない。
「本当です。ただ・・・色とかは違うけど、同じようなタイプの服・・・これは作業着?かな・・・。もしかしてダムの従業員にゴブリンを使ったんですか?」
「馬鹿なことを言うな!」
「それじゃ、揃いも揃って、精霊にでも取り付かれたってことですか?」
「そんなことは知らん!ただ、建設作業者だったら、完成させてまで工員を雇うバカは居ないからな。ずいぶん前に解散しているはずだ。」
でも、見た目は、ヒョロガリのインテリというよりも、脳筋の・・・学校には部活のために行ってますって感じの方々ばかりなんだけど・・・。
「犬を連れている・・・もしや、取り付かれたのは警備隊か!?犬の数は?」
「えーっと・・・20・・・くらいですかね。」
「竣工後に雇った警備隊ではないな。犬の数が少なすぎる。建設作業員たちだな。解散後にやられたか。」
「で、どうします?退却?殲滅?」
「お前はバカか?ゴブリン相手に退却などしたら、笑いものにされるわ!速やかに殲滅せよ!」
ははは、そうですか。
なんだか、すいませんね。
しっかし、殲滅せよって・・・侯爵、あんたの現有戦力、分かってる?
騎馬一個小隊。
しかも、突然俺が提案したスケジュールに対応しようと、即席で、無理やり集めた騎馬隊よ。
対する相手は、ゴブリン200と野犬20・・・。
海坊主相手に、被害出したばっかりじゃん。
「この騎馬隊で、殲滅に当たるんですか?」
「違う!お前たちでやれ!」
はー?
えーっと、侯爵、とりあえず、ぶっ飛ばしていいですか?
「騎馬隊!聞けっ!このまま馬車を護衛しながら前進っ!」
騎馬隊が聞き入れたのを見た侯爵は馬車の中に身を引いて、窓を閉めてしまった。
何を考えとんじゃ!
聞く耳持たずか!
なんか頭にきた!
示威行動ってのはあまり好かんけど、この侯爵に泡を吹かせてやる必要があるな!
“アルディとエレナは騎馬隊前面に出て護衛!”
“”御意“”
「グラーシュ、フォグパレスで騎馬隊と馬車を防御!」
「はいっ」
俺は、敢えて侯爵から見やすい位置へ移動した。
前方の木々の間から、敵影が見え始めた。
距離にして100m。
敵も気が付き、こちらに接近を始めた。
明らかに正気を失っているようだ。
そこに向かって速度も落とさずに前進する侯爵側も、俺には、正気を失っているようにしか見えんけど。
どんどん距離が詰まる・・・。
新しいタイプのチキンレースか?
距離50m・・・
否が応でも、侯爵も目視できるだろ。
そろそろやるか。
バーン!
「ルラン、貴様、何をしているっ!殲滅せよ!」
突然馬車の窓が開いたと思いきや、いきなり怒られた。
今やろうとしてたじゃん。
そういうの一番萎えるんですけど。
ふと馬車を見ると、侯爵だけじゃなく、付き人達まで身を乗り出して、見ている。
あぶね、カムフラージュも忘れずにっと。
俺は、目を閉じ、小声でぶつぶつ唱えながら、左手を挙げた。
イメージ通り、上空に闇の粒子球が20個姿を現した。
そのまま左手を野犬に向けって振り下ろすと、闇の球体が野犬に向かって音も無く、一直線に飛んで行った。
球は、音もたてずに、障害物になっている樹木や藪もろとも、野犬を貫通し、風穴を開けた。
穴を塞ぐように、トマトジュースの様なものが噴き出す。
貫通した球は、勢いを落さずに、そのままゴブリンを襲う。
同様に、音もたてずにゴブリンたちは穴だらけになり、あっという間に、敵は沈黙した。
球は戻って来て、次々と俺の左掌に収まっていった。




