第21話 納品に向けて出発
準備を済ませて、新設されたダムに向けて出発した。
今回は海坊主退治とは違い、単なる集めた水の納品が目的だから、侯爵の乗る馬車と護衛の騎馬隊と俺ら一行だけで向かった。
海坊主退治で、大きな人的被害を出してしまったのは昨日の事もあって、編制が追い付かなかったのか、護衛が減っている。
それもあって、道中は出来るだけ安全な方が良いと考えて、市街地を通過するのだろう。
しかし、他の通行に規制を掛けているわけではないから、周りから白い目で見られずに済んだ。
それに加えて、今回の移動では、俺たちは侯爵とは別に馬で移動しているから、堅苦しい思いもせず、気楽だ。
しかし、王都では精霊に取り付かれた人に襲われた。
念のために、周囲を警戒しながらの移動だったが、精霊に取り付かれておかしくなってしまった人は、見当たらなかった。
王都は病んでる・・・とか?
色々と考えを巡らせているうちに、1日目の移動が済んだ。
今晩の宿は、侯爵家御用達のホテルだった。
しかも、各人にスウィートルームが割り当てられ、ミーヴ侯爵城に負けず劣らずの至れり尽くせりの接待ぶりに、開いた口がふさがらなかった。
毎日毎日、メイドや執事がフルサービスしてくれる環境に居ると、だんだんと感覚がおかしくなってきそうだ。
偉い人たちは、こういう環境が続くことで、少しずつズレていくのかもしれないな~。
そう思うと、せっかく泊めさせて貰っているのに、なんだか気が乗らなくなってきてしまった。
生まれも育ちもド平民の俺は、合わないんだろう。
契約条件に“ミーヴ侯爵の立ち合い”が無ければ、こんな贅沢な思いをせずに、納品まで出来たような気がする。
条件提示の際に、“侯爵の指定の者の立ち合い”にしませんか?って、提案すれば良かった。
結果論になってる・・・
グラーシュが立ち直ったかと思ったら、今度は俺が慣れない環境に押しつぶされそうになってるじゃん。
夕飯が、各自に割り当てられた個室で頂けたことは幸いだった。
目が覚めた。
結局、白と黒の世界にもお邪魔しなかったし、グラーシュも同室じゃないから、なんだか寂しく朝を迎えた。
おじいさんも先生も、凹み切ってネガティブになっている俺の相手なんてしたくなかったのかもしれない。
違うな、自分で打開しろ!・・・だな。
それに、なんか最近グラーシュと一緒が多かったから、居て当たり前みたいな感じで・・・下心抜きに、グラーシュと同室が良いなぁって思ってしまった。
とりあえず、まだ朝早いし、気分転換に散歩をしようと部屋を出た。
部屋の外には執事が居た。
マジ?
宿泊先でも、ホテルマン居るのに、早朝から執事やってるやん。
ホテルマンに接待される執事さんってどんななのか。
観察すればよかった。
凹んでいると内向きになっていて、周囲にあるチャンスに気が付けないから、なんか損した気分だ。
凹んでいる場合じゃないな。
気持ちよく挨拶して、リセットしていきましょ。
「執事さん、おはようございます!お疲れ様です。」
「ルラン様、おはようございます。どちらに?」
「ちょっと散歩に・・・」
「そうですか。」
執事は近くにいたメイドに近寄り、耳打ちして、戻ってきた。
「ちょっとよろしいでしょうか。」
執事が神妙な面持ちだ。
「え?何かありましたか?」
・・・
・・・・・
こんなに浮かない散歩も無いな。
呼び止められた執事からは頼まれたのは、ミーヴ侯爵の相手をしてくれというお願いだった。
ここ最近は、執務に追われていたために、久しぶりの外出で楽しみにしていたとのことだった。
実は、海坊主討伐も、それなりに気分転換できるだろうと踏んでいたようだが、予想外の被害で、後処理に追われてしまい、結局のところ気分転換にならなかったみたいだ。
だから、この納品のための外出こそは、気分転換をする良いチャンスだと気合を入れて臨んでいるとのことだ。
そんなん知らんし。
それに加えて、ミーヴ侯爵は俺に興味を持っているから、避けないで相手をして欲しいとも言われた。
って、俺の都合はよ!
あの手のタイプは、誤魔化したり上っ面だけのコンタクトを、看破しそうだから、質が悪いよな~。
全く・・・質が悪いな。
それに、俺への興味って、世にも珍しい“空”だからか?
勘弁してくれよ。




