第20話 掴んだコツ
食事終りに侯爵が話しかけてきたが、出発の準備があると申し出て、早々に自室に戻ってきた。
自室の入口ではメイドが10名並び立ち、革袋を抱えて持って待っていた。
「すいません、お待たせしちゃいまして。入って、入り口近辺に置いちゃってください。」
「かしこまりました。」
「念のため確認ですけど、全て頂いちゃって宜しいですよね?」
「はい。ルラン様に進呈するよう聞いてます。」
よし。
「ありがとうございます。」
メイドが順に部屋に入り、全ての革袋を配置してくれた。
全員が退室した後、1枚ずつ手に取って確認した。
お願いした通り、20枚用意されていた。
しかも、どれも新品のように見える。
これは、侯爵の仕事に使うからって、下してきたな。
ここに居ると、なんか調子狂っちゃうわ。
金銭感覚というかが違い過ぎる。
水仕事で使い捨てるに、新品を用意してくるなんて。
運よく侯爵とのつながりが出来たけど、侯爵と付き合うという事はこういう感覚でってことか・・・。
前世と同様に、仕事と割り切るしかないのかな~。
全ての革袋をゲート内に収納した。
大きく上質な革袋だから重さがハンパじゃない。
ただ、状態を確認して収納するだけなのに、一苦労だ。
前世のビニール袋の有難みを、転生先のこの場所で改めて感じ入ってしまった。
終って一息入れているところに、グラーシュが近づいてきた。
「ここで、見せてくれるの?」
「はい。」
グラーシュは返事をするなり、型を始めた。
・・・
「どうです?」
どうですって言われても・・・
俺は煩悩の固まりよ。
動くたびに揺れるおっぱいと、蹴る度に“見えた!”ってなっちゃうから、何処を見て欲しいか先に言ってもらわないと。
それでも、自分の煩悩を理性で抑えて観察しても、長くて綺麗な手足が、流れるように、時には激しく動き、美しさしか伝わってこなかった。
要するに、性的なものと、美的なものしか拾えず、武術として何がどうなのかさっぱり分からなかった。
「ごめん、グラーシュ、俺素人だから、よくわからなかった。」
「えー!」
・・・
「これならどうですか?」
少し考え込んでから、グラーシュは、シンプルに、正券突きをして見せてくれた。
シュ!
「これが・・・こうなりました!」
バシュッ!
―ー!?
正券突きの先に水の槍の様なものが出た!
拳を引き戻す頃には消えている。
「更に・・・」
そう言うと、グラーシュは左右の正券突きを連続し始めた。
水の槍はどんどん細くなって・・・最終的にはほとんど見えなくなった。
「消えた?」
「消えてません!」
「冗談、冗談に決まってるじゃん。それ、ウォーターニードルとの組み合わせ?」
「はい。」
ヤバいな・・・
無詠唱で、そこまで到達したんだ。
試しに喰らってみたら、大変な事になりそうだから、止めておこう。
ってか、ここまで熟練度上がると、ウンディーネの補助もあるから、ほとんどマナ使わずに済むんだろうな。
それでいて、打撃の射程と貫通力が増してるのか。
「もしかしてさっきの型、ずっとそれも含めてやってたの?」
「はい。」
「タイミングもずらせるの?」
「もちろん!」
これは・・・グラーシュは、センスの固まりかもしれないな。
「他の属性のコモン魔法も、同じように使えるようにしてみたい?」
「はい!」
夢があっていいねぇ。
もう俺の魔法使いへの道は諦めて、グラーシュに極めて貰いますか。
この旅のテーマを、“グラーシュ 最強への道 ―私より強い奴に会いに行くー ”にしちゃおうかな。




