第19話 朝の迎え方
おじいさんに心の中でツッコミを入れた拍子で目が覚めた。
アタリを見渡してみたが、一緒に寝ていたはずのグラーシュの姿は、見当たらなかった。
“おはようございます。グラーシュは朝早くに支度を整えて外に出て行きました。追いかけて、合流して今一緒に居ます。”
エレナから、思念が飛んできた。
“場所は?”
“演習場です。”
“演習場?朝の訓練?”
“体を動かして気分転換しているように見えます。”
“1人で?”
“いえ、何人かに絡まれて、組手もしています。”
絡まれて組手?
“ケガとか事故は無いよね?”
“あります。”
“え?あるの?大丈夫?”
“多分大丈夫です。グラーシュが手加減していますので。”
ん?
ケガは相手か・・・エレナが冷静な訳だ。
グラーシュに自ら絡みに行ってケガしている奴のことを心配する必要ないな。
格闘術に真面目に取り組んでいる人なら、グラーシュの朝練に、声をかけることは有っても、絡みに行くわけないし。
どうせ、変態目的で近づいた輩なんだろう。
朝から変態目的にスイッチが入る・・・お盛んなこって。
いいおっさんの俺にはとても真似できないわ。
いや・・・グラーシュのせいかもしれないな。
スタイル抜群の長身美人が、露出度高めの服装で、体を動かしていたら、絡みたくなる奴が出て来ても無理はないか。
ともあれ、グラーシュは、エレナも居るし心配ないだろう。
ってことで、改めて、水の回収状況の確認だ。
えーっと・・・順調に水のストックは出来ているようだ。
ただ、塩のストックも、かなり溜まってきてしまった。
これも一緒に買い取ってくれないかな。
タイミングを見計らって、侯爵に、一旦言ってみるか。
部屋を出ると、案の定、少し離れたところに待機しているメイドの姿が見えた。
「すいませーん。」
俺の声かけに気が付くと、小走りで駆けてきた。
「いかがなさいました?」
「いや、大したことじゃないんですけど、大きな革袋を頂きたいんですが、使っていない物ってありますか?」
「少々お待ちください。」
メイドが小走りで駆けて行った。
少し経つと執事が来た。
「大きな革袋が欲しいとのことですが、どのような用途でございますか?」
「水の納品に当たって、内側に転移魔法を施して利用する予定なんですけど、納品する水の量が非常に大量なので、出来るだけ大きい物が複数あれば助かります。」
「どのくらいの枚数でしょうか?」
「そうですね。・・・」
正直に言うと、多ければ多いほど嬉しいんだけど、そんなことを言った日には。何枚持ってくるか分からないから・・・
「20枚ほどあれば。」
「かしこまりました。朝食の用意が済んでますので、食堂へご案内致します。革袋は、食事中に用意してお部屋にお持ちします。」
「ありがとうございます。使い捨てる可能性が高いので、使い古しで構いませんからね。」
・・・
アルディと一緒に食堂に案内されると、既にグラーシュとエレナは席についていた。
「あれ?グラーシュ、朝練してたよね。組手も。」
「はい。」
部屋に戻って着替えてきた・・・訳ないよな。
俺とアルディが部屋から真っすぐここに来ているんだから。
汗かいてないし、服汚れてないんですけど・・・。
全く相手にならなかったって事か・・・。
でも、そんなに一方的になるもんかね。
絡んできた輩だって、腕に自信のある人、もしかすると朝練をするような人なんでしょ・・・
グラーシュのスタイルと美貌にクラクラきて、輩に変わっちゃっただけで。
それを、服も汚さずにボコボコって・・・。
「グラーシュ、なんか掴んだ?あとで教えてね。」
グラーシュは不敵な笑みを返してくれた。




