第16話 魔法使いの生息地
「何だ?」
「今まで見かけた冒険者の中に、魔法使いを見かけなかったような気がするんですけど、もしかして魔法使いは数が少ないんですか?」
「ぷっ・・・・それは“自分の周りには”という話だろう。」
「え・・・」
「この国は経済活動が盛んになってしまったから、便利な魔法は経済活動に関連して使用されることが主になってしまった。良いか悪いかはさておきな。」
「魔法使いは冒険に出ない・・・。」
「出ない訳じゃないが、出てる時間より籠って魔導書を書いたり、依頼されたマジックスクロールを作ったりが多いんじゃないか。」
「その方が安全で稼げるからですか?」
「安全だしコスパが良いからだ。考えて見ろ!自分のマナを使って、討伐で失敗するより、魔導書やマジックスクロールを書いて売れた方がマナは無駄にならない。」
「魔導書やマジックスクロールを売った段階でカネが入るからか・・・。」
「そうだ。」
「売れるマジックスクロールを量産できるようになれば、そちらに掛りっきりの方が、一日のリズムも自分の作業次第だ。」
「確かに・・・」
「それに加えて収入面でも生活が安定するだろう。中にはNMS発行ギルドに毎日出勤している奴も要るようだぞ。」
ははは、サラリーマンと変わらないじゃないか。
「そうだな、例えば、魔法を実際に自分で試したいという思いになれば、出てくるかもしれんな。あるいは・・・。」
「あるいは?」
「いや、何でもない・・・。」
なんか、せっかく魔法のある世界に転生したのに、なんだか“経済”の方が特徴的で優先されてて、ちょっとがっかりだな。
でも、この前のマイール山の様な一大事が起きて、初めから魔法使いが招集されていたら、あのような大惨事にはならなかったかもしれない。
次に事件が起きれば、その規模の大小にかかわらず、魔法が使えることが最低条件になるかもしれない。
そうなれば・・・
俺が参加できないじゃん。
なるほど、今の俺の環境が魔法使い居ないだけっていうのも一理ある。
“魔法使いの居る環境”に行けばいいのか・・・。
「そういえば、ミーヴ侯爵領には魔法学校があるって聞きましたが・・・」
「そんなものは、他の侯爵の直轄地にもある。むしろ乱立してるぞ。困ったものだ。」
そうなのか・・・。
「入学ってどんな要件なんですか?」
「お前には無理だぞ。」
「なんでですか?」
「何の属性も持たない“空”のお前が入れると思っていたのか?実験体になるなら受け入れてもらえそうだがな。」
やっぱり・・・だめか・・・。
「まぁ、詳しい話は、執事にでも聞け。」
「は・・・はい。」
「で、グラーシュ、お前はいつまでそうしているんだ!」
ちょ・・・ぶっこむなぁ、侯爵。
「何があったか申してみよ。」
グラーシュは下を向いて沈黙している。
侯爵の仕事で楽しみにしていた格闘技イベントに行けなくなった!なんて、グラーシュが言う訳がない。
ん-、俺が言えばいいか。
怒られても、俺がやったことで俺が怒られるわけだからさ。
「実は、予定していた格闘技イベント“格闘神”を観戦又は参戦するために、商業ギルド“最西新風”に行く予定だったのですが、水の納品と重なってしまって、あきらめざるを得なくなったんですよ。」
言い終わると、グラーシュからの痛いくらいの視線を感じた。
あれ?
代弁しちゃまずかったかな。
「なるほど・・・、そういうことか・・・。」
こういう人には、正直に正しい情報を言う方がいいんだよ・・・って後でグラーシュに教えておこう。
結果オーライなだけだって怒られそうで、ちょっと怖いけど。
「グラーシュ、すまなかったな。でも今は、こちらの仕事に集中してくれ。」
「はい・・・。」




