第15話 バカ舌にも訳がある
昨日よりは、食事の味が分かりそうな気がしたが、グラーシュの凹みっぷりが凄く気になって、今夜もやっぱり料理の味はよく分からなかった。
「どうした、グラーシュ!口に合わないか?」
侯爵が気にして声を掛けきた。
「いえ。料理はとても美味しいです。」
え?
本当に味分かってる?
「とてもそうは見えないが・・・部屋で何か・・・ルランにされたか?」
「人聞きの悪い言い方しないでくださいっ。」
こういう時は、誤解が生まれないように、相手が侯爵だろうがハッキリ言うべきだと思って、つい力が入ってしまった。
「はは、すまん。それで、水はいつ納品だ?」
「それに関連して何ですが、ここから納品地点まで移動はどのくらいかかりますか?」
「通行を優先させれば、2日。流れに任せて移動すれば・・・3日から4日といったところだ。」
「それならば、流れに任せて移動してください。出発は明日でも構いません。」
「ほぅ。それならば、明日の正午出発とする。で・・・どのくらいの量を納品してくれるんだ?」
「おそらく必要量全部いけます。」
「ほぅ、それは大きく出たな。だとすると、納品にも時間が掛かろう。どのくらいだ?」
「ダムへの負担を考慮して、5日です。」
こういう場合はちょっと長めに、余裕をもって言っておくのが一番だ。
事前にアナウンスした時間より長くなってしまうと怒られるが、短くなって怒られることはほとんどの場合無いからな。
それに本当に5日掛かっても、初めに5日って言ってあれば、嘘は言ってない訳だし・・・。
「いいだろう。では、その分の食料と資材を持って行く事としよう。実に楽しみだ。」
「道中なんですが・・・」
「なんだ?」
「侯爵と同じ馬車ではなく、私たちは各々の馬で向かいます。」
「何故?」
「グラーシュは、魔法の訓練中ですし、私も試したいことがございますので、馬車に侯爵と同乗しては、ご迷惑をおかけすることになるかと思いまして。」
「ふん、まぁ良い。好きにしろ。到着後も時間があるわけだしな。」
ん?
一緒に移動したかったのか?
到着後の時間を気にしたことと、なんやかんや食事に招待されるってのは・・・。
もしや・・・。
まさかね。
・・・
それにしても、マジで空気が重い。
グラーシュが凹んでいるから余計にそう思うのかもしれないけど・・・。
豪勢な夕食を前に楽しめないのは、せっかくのチャンスを棒に振っているような気がしてくる。
なんか・・・喋るか・・・。
営業中もそうだったな~、どうしても、何でもいいから、“場を持たせるスキル”って必要なんだよね。
ベテラン営業マンからは「喫煙に厳しくなる前は、タバコを取り出して吸い始めるってのもいい手段だったな~」って言われたことある。
場を持たせたいって思う時は、たいていの場合、相手も同じようなことを考えているから、どんなに些細なことも拾ってくれるんだよね。
仮に、こちらが場を持たせようと必死になっているのに、全く空気を読めない奴だったら、今後の付き合いを考え直すチャンスって割り切ればいいんだし・・・。
前世から持ち込めたのは、こういう知識だけなんだから、フル活用せねば。
ということで・・・。
「ミーヴ侯爵、ちょっと宜しいでしょうか。」




