第14話 予定と優先順位
「私たちの事を悪いようにはしないというのは。」
「それは、水の納品が済んでからのお楽しみだ。」
ん-、まぁいっか。
ミーヴ侯爵が俺をどう評価しているかと、水の納品の真意がわかったから。
多分、本当に“悪いようにはしない”んだろう。
「他の質問は?」
俺はひとまず今回の件については、いいかな。
グラーシュに視線を送ると、首を振って返した。
「以上です。」
「また何かあったら、いつでも言え。」
「はい。」
グラーシュが気持ち良い返事をしてくれた。
帰りの馬車は、通行を優先させることも無かったから、俺の気分が害されることは無かった。
しかし、侯爵とは雑談をする仲でもないし、馬車のインテリアと侯爵の出で立ちが醸し出す格式高い空気に押され、話す気にもなれず黙っていた。
とはいっても、緊張し続けるにも限界があり、馬車の振動のせいもあってか、睡魔に襲われた。
窓枠に肘をかけて、大きな揺れに目を開けることもあったが、居眠りを繰り返しているうちに、気が付けば城に着いていた。
馬車のドアが開けられて、先に侯爵が下りた。
用心は最後に降りるもんだと思うが、忙しいのかな。
付き人を従えて、足早に城の奥へ消えていった。
「夕食になりましたら御呼びいたしますので、それまでごゆっくりお過ごしください。」
馬車を下りた直後に、脇に立っていた執事から、夕食の案内を告げられた。
それまでは自室待機って事?
ほぼ軟禁じゃん。
何を考えているんだか・・・。
まさか・・・このまま水の納品が済むまで、軟禁されるのか?
割り当てられた自室に戻ったところで、あらためて水の回収状況を確認した。
今のペースなら3日も有れば、約束の水量を集められそうだな。
確か、納品場所のダムはルーロック山の麓だったから、ここから移動すると、3日くらいか。
とすると・・・明日の朝には出発して、ゆっくり移動すれば丁度良さそうだな。
水の放出も、3日位かけて、帰り道も3日掛かって・・・って感じか。
やばい・・・
行って帰ってきたら、グラーシュが楽しみにしている“格闘神”が終わってるな・・・。
一度に200Mtなんて突っ込んだら、ダムが決壊してしまうから、どうしても様子を見ながら注ぎ込むことになるし・・・。
帰り道を飛ばしに飛ばしたって、南北に広く発展しているミーヴの場合、北端から中央まで戻るのに、街中を走る事になってしまう・・・。
イベントへは、参加も観戦も、無理だ。
こういう悪い見通しって、分かっちゃったからには、出来るだけ早く関係者で情報共有した方が、後々トラブらなくてイイんだよね。
都合よく4人部屋になっていて良かったわ。
というわけで・・・
「グラーシュ、残念なお知らせがあります。」
「な・・・んでしょう。」
グラーシュは、自室に戻るなり、押し殺していた疲労が噴出し、ソファでまったりしていたが、ゆっくりと姿勢を正しながら返事を返してくれた。
「格闘技イベントは、侯爵の依頼の都合で、行けないかもしれない。」
「え・・・えーーー!!」
驚きの声を上げつつ、グラーシュは急に立ち上がった。
「御免。考えてみたんだけど、どんなに急いで水の納品を済ませて帰って来ても、間に合いそうにないんだよ。」
「そ・・・そんなぁ。」
スラッと伸びたグラーシュの御御足が力を失い、再び疲労に襲われ、ソファに座り込んでしまった。
そうだよな~。
「多いときは毎月開催されているみたいだから、これがラストチャンスって訳じゃないしさ。」
「はい・・・。」
「それに、今やっているの侯爵の仕事だから、すっぽかす訳にもいかないし。」
「先に・・・」
「ん?」
「先に格闘神に行くってのはどうですか?」
「多分、納品が済むまで、この軟禁状態が続きそうだから、それは難しいと思うよ。」
「そうですか・・・」
コンコンッ、コンコンッ。
部屋の入口がノックされた。
「はーい。」
凹んでいるグラーシュに変わって俺が返事をした。
「お休みのところすみません、お夕食の準備が整いました。」
メイドさんが呼びに来てくれたようだ。
「とりあえず、侯爵を待たせてもいけないから、行こうか。」
力無く下がるグラーシュの両肩を、持ち上げて立たせ、食堂まで移動した。




