第12話 海の怪奇の解決方法
「海坊主の初めは空想上の存在だったのだろう。今となっては、始まりなんてどうでも良いがな。」
「多分、何かしらの海洋生物に襲われた者が、不確かな自身の体験談を、面白おかしくするために脚色して、周囲に語ったのが始まりなんじゃないか。」
「その話を信じる者が増え、受けの良さから便乗して同様の体験談を語る者が増えるに従い、畏れ多い存在として語られるようになっていったようだ。」
「そのうち海での恐怖体験だけではなく、怪奇現象であれば有難い体験も海坊主のせいだと語る者まで現れ始めた。」
「まぁ、分からない話でもないがな。船乗りのお土産話で、大漁だったと自慢されるばかりでは、聞く側がつまらない。」
「海特有の怪奇現象やトラブルの方が、陸で生活している者にとっては興味が沸くだろうから。」
「そして、上手に脚色された海坊主物語が、人々の間で語られ始めて、気が付けば海坊主信仰が生まれてしまった。」
「信仰が強まるにつれて、その意思に呼応して、実際に存在する霊体になったという事だ。ここまでの話は分かったか。」
海坊主を切った感触が、ゴブリンやオーガと違ったから、存在として別物なんだろうと思ってはいたが、まさか霊体だったなんて。
でも切った自分の感触は嘘じゃないし・・・。
「何となくですが、分かりました。」
俺の返事に続くようにグラーシュも頷いて見せた。
「つまり、先ほど現われた海坊主も霊体だ。退治しても一時的に撃退したにすぎない。」
それって、甚大な被害を出してまでやる事だったのか。
って、喉元まで出掛けたが、押し殺した。
「ふん。ルラン、お前の言いたいことくらいわかるわ!何故わざわざ海坊主を呼び出したんだって聞きたいのだろう。」
「あ・・・いや・・・はい。」
「海坊主は、強い信仰心から生まれた霊体だからな。」
「根本的に海坊主の存在を無くし、ミーヴの海を安全にするためには、人の誤解や妄信から生まれた海坊主に対する信仰心を叩くしかない。」
「“恐れるに足らず”、“屠った”など、海坊主の存在を否定する、信仰を打ち砕く情報が人々の間で伝播することが必要ということだ。」
「だから、ルランが呼び出せるならば、呼び出して、何としても討つ必要があった。」
「そして、私自身が証人となって海坊主を討った。これで、ミーヴ侯爵からの公式発表として“海坊主を討った!”を発信できる。」
「これが、忌々しい“海坊主”という民間伝承を打ち砕き、ミーヴの海の安全性を高める第一歩となる。」
「なるほど。そういう事ですか。」
「ただ、予想外の被害が生じてしまった」
「しかし、これはミーヴ騎馬隊の不甲斐なさが露呈した結果だ。」
「昨日の今日で、急遽招集したのが精鋭ではなかったにせよ、真摯に向き合って、立て直さなければならん。」
「騎馬隊が必要になるのは、得てして緊急事態の場合が多いからな。」
「他は?」
「そうですね・・・」
「何故、私達に水の納品の話をしたんですか?」
「そのことか・・・。」




