第8話 馬車の中でもヘビが出る
「ルラン様、おはようございます。」
目を開けると既に準備万端のグラーシュが居た。
「おはようございまーす。・・・え?もう出発?」
「いえ、出発まで1時間有ります。」
良かった~。
昨晩、執事に、あんだけ啖呵切っておいて、俺が寝過ごしたなんて洒落にならんからな。
まぁ、グラーシュが起こしてくれるから俺は大丈夫って甘えもあったけど・・・それはそれとして。
「準備早いね。」
「その・・・よく寝れなくて・・・。」
「ん?なんか気になる事があるとか?」
「はい。200億Yって、昨日受け取った金額の5倍ですよね。なんか興奮しちゃって。」
おいおい、全額貰うつもりでいるの?
200Mtってどのくらいの量か想像できていないんだろうな~。
まぁ、俺だって正確に想像できている訳じゃないけど。
200Mt納品して200億Y満額受け取りは、無理じゃないかな。
侯爵だってそこまでは考えていないだろう。
立場上、ハッタリも込めて、水量確保に割り当てた予算総額が200億Yって意味だろうし。
「まぁ、やれるだけやろう。」
「はい!」
・・・
・・・・・
準備を済ませて、集合場所の西の城門にて侯爵一行を待った。
時間通り、侯爵、付き人2名、執事が来た。
「おはようございます。」
「こんなに早くに出発だなんて・・・なんだか興奮してきたわ。」
おい、侯爵、挨拶には挨拶を返せよ。
これだから偉い人は嫌いよ。
それに、この状況で興奮してくるなんて・・・妄想と期待が膨らみに膨らみ切ってるのか?
心配になるわ。
程無く、馬車2台と、護衛の騎馬隊が到着した。
侯爵の指示で、俺とグラーシュは侯爵と執事と一緒の馬車に乗り込んだ。
移動くらい好きにさせてくれよ~。
走り出した馬車の中で侯爵とグラーシュが話を始めた。
仕事以外の話だったから、俺はボーっと外の景色を楽しんでいた。
・・・
「それで・・・、最近はどんな討伐をしたの?」
「ギルドで受けた仕事としての討伐ではありませんが、先日、海坊主を退治しました。」
ガタッ!
グラーシュの発言に、突然侯爵が立ち上がった。
「海坊主って、突然夜現れる海の災厄よね!退治したの!」
「は、はい・・・。」
「詳しく説明しなさい。」
「詳しくと言われましても・・・」
視線を感じてグラーシュを見ると、困った顔でこちらを見ていた。
はぁ。
藪をつついて蛇を出したな・・・。
仕方ない。
「私らが、朝方散歩がてら砂浜に出て、魔法やスキルを試していたら、突然現れたんですよ、真っ黒な巨人と、同じように真っ黒な人間の様なものが、わらわらと。」
「それで?」
「で、みんなで協力して倒しました。」
「ちょっと・・・」
「なんでしょう。」
「それで説明したつもり?」
「そうですけど。」
「海坊主は、夜の闇の中から現れて、人や船などを襲うのよ。あなたたちは朝方って・・・どういうこと?」
「ん-、試していた魔法か、スキルでたまたま周囲が暗くなっていたんですよ。それで出てきたんじゃないですか?」
「説明になってないわ!そんなふざけた説明で納得すると思ってるのかしら!」
「ちょっと、怒らないで下さいよ。私たちも待ち構えていて襲われたんじゃなくて、急に襲われたんだから、そんな詳細に説明なんてできないです。」
「それもそうね。・・・そうだ、良いこと思い付いた!」
そう言う侯爵の顔は怪しい笑みを浮かべていた。
思い付いたのは、絶対に悪い事だろ!




