第5話 水集めの説明
「侯爵の仰った“水集め”は、侯爵領の緊急時の生活用水及び工業用水になります。」
なるほど、だから侯爵から直接話が有った訳だ。
「ご存じかと思いますが、ミーヴで使われる水は、レーゼン侯爵領から王都を通り、残った水と、マイール山、ルーロック山から流れる川の水がほとんどを占めています。」
いや、存じ上げませんでした。
でも、ここで質問すると話の流れが遮ってしまうから、流そう、水だけに・・・違うか。
「これらの流量の安定化と必要水量の確保の目的で、今は緊急用水のダムを、レーゼン侯爵領からの川に設置しています。」
「しかし、侯爵の功績によりミーヴは発展を遂げ、数年後にはそのダムの容量不足が深刻な問題になる事が予想できました。」
「それに加えて、土木構造部分の経年劣化も進み、作り直しを考えています。」
「ただ、何の準備も無く作り直しをすると、その期間中に水不足が生じてしまうので、既存のダムとは別にもう一つルーロック山の麓にダムを作りました。」
「水の山であるマイール山からの水は、期待通りの水量が安定しているのですが、ルーロック山からの水量にはばらつきがあるためこれを安定させる意図もございます。」
「ここまでが依頼の背景ですが、ご質問等ございますか?」
「いえ、よく分かりました。」
グラーシュがすかさず返事をした。
こういう多人数に話をしている時のリアクションは、話しかけている側としては有難いことをグラーシュは分かっているのかな。
それか、単に素直に反応しただけかも。
いずれにしても、ナイス!
「それでは、これを踏まえて、依頼内容をご説明いたします。」
「集めて頂く水は、緊急用水なので“真水”です。下水はおやめ下さい。例えば、雨水が好ましいです。」
は?
雨水集め?
「集める量は、最大で2億立方メートル、重さにすると約200Mtです。」
何を言っているの?
単位が、よくわからないんだけど・・・。
2メガトン?・・・
200万トン!?
真水で?
ムッチャクチャなこと言ってる自覚無いのか?
「報酬は、1tあたり100円で、最大で200億Yです。」
「ちょ・・・ちょっと質問良いですか?」
つい俺は手をあげてしまった。
「どうぞ。」
「確認なんですけど、本当に、そんな量の入るダムがあるんですか?」
「はい、計算と設計を繰り返し、何度も担当者を変えて検算していますので、間違いありません。」
「200Mtで、ダムは一杯になるんですか?」
「いえ、安全率を確保し、許容量はもっと多いですから、ご安心ください。」
「報酬はどのように受け取るんですか?一括だと有り難いですが・・・。」
「もちろん一括でございます。」
一括支払いできるの!?
ミーヴ侯爵、やば・・・。
「続けて、契約条件です。」
「は?」
いやいや、契約してから契約条件って何だよ!
「大丈夫ですよ。条件は2つですが、大した条件ではございません。」
やば、顔に出てたかな。
「どんな条件ですか?」
「水の回収時と納品時は、ミーヴ侯爵ご自身が立ち会うという事です。」
「雨水の回収に、侯爵が立ち会うんですか?」
「そうなります。ただ、量が量ですから、全てに立ち会う訳ではありませんが。」
「分かりました。」
「もう一つは、侯爵のお気に召さないことがございましたら、即解約の可能性があるという事です。」
まぁ、その条件は何となく想像はできる。
それを敢えて、言葉にしたという事に威圧感とほんの少し誠実さを感じるが・・・。
「これで説明は終わりです。」
「最後に、侯爵より、説明が済んだ段階で契約を破棄するか、進めるか最終確認をするように仰せつかっていますので、ご判断をお願いします。」
「やります!」
気持ちいい返事が食堂に響き渡った。
はぁ、グラーシュ・・・何を即答してるの。




