第4話 食事は気楽にしたい
通された部屋は、中央に長テーブルが1つ配置された食堂だが、装飾家具が並んでいた。
食堂だというのに、その装飾品が醸し出す気品が漂い、俺みたいなド平民は落ち着かない。
なんか居るだけで胃が痛くなりそうだ。
それに加えて、周囲にメイドが配置されていて、なんだか“さらし者”にされているな気分だ。
案内された席に着くなり、ミーヴ侯爵が入ってきた。
あぁ、ヤバい。
既に体が拒否反応を起こし始めているのが分かる。
これ、確実に前世の悪い思い出が影響してるな。
食堂は広く、座席も多いが、席についているのは、侯爵と俺ら一行だけだった。
他にも大勢いれば、この侯爵からの圧迫感を分担できそうなのに・・・。
空席が、俺に負担を強いているようにも感じた。
特に何があるわけでもなく、ミーヴ侯爵は食事を始めた。
それを見て、「じゃあ俺も」とも言い出せず、黙って待機せざるを得なかった。
「遠慮なく食べなさい!」
食べ始めないこちらに気が付いた侯爵から一声あがった。
だから、こういうのが嫌なんだよ!
リーチ伯爵邸で出されたフルコース料理とは、レベルが違う。
まず、食器が違う。
薄さと軽さと品の良い装飾・・・どうみても一般人が手にするようなものではなく、一点ものに見える。
それが揃っているんだから、ドン引きだ。
味は・・・全然分からない。
ってか、雰囲気と圧迫感と拒否反応で、俺の舌がバカになってるわ。
「今回の報酬は、私立の工業ギルドで、砂の採取分だと聞いたが、レートは低かったみたいじゃないか。」
食べ進めて、ソルベを口にし始めた侯爵が話しかけてきた。
グラーシュがスプーンを下げて、会釈するのが見えたから、慌てて俺も続いた。
「砂じゃなくて、水を集めることもできるかしら?」
そう聞かれて回答に困ったグラーシュが俺の方を見てきた。
水?別に問題なさそうだけど・・・
ひとまずグラーシュには頷いて見せた。
「大丈夫です。できます。」
「そ。じゃ、お願いしようかしら。」
「わかりました。」
「いい返事ね。報酬は悪いようにはしないから。詳しい話は、そこにいる執事から聞いて。」
「はい。」
は?
グラーシュ、何をさらっと承諾してるの?
突然の交渉と、済んだ川の流れのように承諾まで至ってしまったことに、頭が混乱して、ソルベの次に出てきた肉料理は、味は元より、何肉なのかさえ分からなかった。
・・・
罰ゲームのような食事が終わり、ミーヴ侯爵はさっさと退室していった。
すると、執事が俺らの前に立ち、軽く咳払いをした。
「先ほど侯爵から話があった“水集め”についてお話致します。」
メイドたちが、食べ終わった食器を下げて、改めて紅茶を用意してくれた。
仕切り直しって事か・・・。
体を執事に向けたところで仕事の話が始まった。




