第2話 侯爵登場
「じゃあ、入りますか。」
衛兵に促されるままに、城門から中に入った。
目の前に広がっていたのは石畳の通路と、石造りの建物・・・
夜に入城してしまったために、冷たい印象を受けた。
「グラーシュ様、お待ちしてました。」
声の聞こえる方を見ると、1人の執事がいた。
「代金の引き渡し場所までご案内いたします。さぁ、こちらへどうぞ。」
グラーシュがこちらを見た。
とりあえず付いていくのが穏便かなと思い、頷いて見せた。
「はい。」
グラーシュは執事に向き直して返事をした。
執事の後を追って歩くこと15分、守衛所のあるデカい建屋に到着した。
現金を管理している場所なら、入り口に守衛所が設置されているのも当然か。
執事が守衛所に立ち寄って手続きを済ませてくれたおかげで、俺たちは顔パスで中に入れた。
中に居た責任者らしき男が執事に気付き、駆け寄ってきた。
「例の代金引き渡しです。」
「かしこまりました。こちらへどうぞ。」
執事の一言で、責任者の案内が始まった。
着いた先は、応接室だった。
流石に金庫の前で受け渡しってことは無いか。
「少々お待ちください。」
そう言うと、執事が退出していった。
俺たちは、案内してくれた責任者と部屋で待つことになった。
・・・
・・・・・
少々って言ったのに、ずいぶん待たせてくれるなぁ。
もう30分以上は待っているぞ。
「あの~。」
「どうなさいました?」
案内人に話しかけると、応じてくれた。
「入城の際に、1時間で退出するように言われたのですが・・・」
「その点については、大丈夫ですから、ご安心ください。もう少々お待ちください。」
いや、ご安心できないから聞いてるんです。
説明してくれなきゃ大丈夫かどうか俺にはわからんじゃん。
しかし、裏が無さそうな笑顔に、押し切られ、聞くに聞けなくなってしまった。
・・・
・・・・・
もうアウトだ。
絶対に入城から1時間は経過している。
本当に大丈夫なのだろうか。
心配になってきたところで、部屋のドアが開いた。
女性が、2人の男性を引き連れて入って来た。
先ほどの執事は、3人に続いて入室し、ドアを閉めた。
女性は席に着くも、2人は後ろに立っている。
妙に仰々しいな。
グラーシュと異なり、体のラインは全く分からない豪勢な服装だ。
それでいて品が良い。
雰囲気は淑女だが、顔はしわが一つもない。
美容にカネを掛けているんだろうな~。
で、誰?この女性・・・。
「初めまして、グラーシュ・カラー殿。私が、アマリア・ミーヴだ。よろしく。」
え・・・。
ミーヴ侯爵って女なの・・・。
「お目にかかれて、光栄です。ミーヴ侯爵。」
「色々と御話したいことがあるのだけど、まずは代金の支払いね。」
「はい。」
グラーシュがこちらに手を出した。
そうだった!
慌てて胸ポケットに手を・・・。
すかさず、ミーヴ侯爵の付き人が構えた。
あぶね!
「すいません。ちょっと待ってください。」
左手でローブ左側を開き、何もないことを示した。
ミーヴ侯爵が視線を送ると、付き人は構えを解いた。
ヤバい、変な空気になっちゃったよ・・・。
ここには俺らしかいないんだし、待っている間に、テーブルに出しておけばよかった。
ゆっくりと、右手で胸ポケットに手を入れて、受領証を出し、グラーシュに渡した。
「こちらが、納品時に受け取った受領証になります。」
グラーシュがミーヴ侯爵に差し出すと、中身を確認し、執事に視線を送った。
執事が部屋を出た。
空気が重い。
俺が悪いんだけどさ。
少し経つと、執事が入室してきた。
「用意が出来ました。」
その一言でミーヴ侯爵が立ち上がった。
「ついて参れ。」
「はい。」
侯爵の言葉にグラーシュが返事をして、部屋を出るミーヴ侯爵の後を追った。




