第42話 男のロマンが形に
おじいさんに怒られた拍子に、目が覚めた。
まだグラーシュが帰ってきていないことからすると、朝食中か。
体感していた時間よりも、おじいさんと先生による指導は早く済んだんだな。
ひとまず、支度を済ませて、食堂に向かった。
3人とも食事を終えて、食後のお茶を愉しんでいた。
まだ俺の分の食事を下げられていなかったので、急いで席に着いた。
「間に合いましたね。」
「うん。良かったよ。」
「大丈夫ですよ。貸切なんですから。」
「あ・・・そうか。」
俺の気持ちは朝食に在らず、貸切である事も忘れていた。
「3人とも食事後に俺の部屋に集合ね。」
「何かするんですか?」
「うん、もの凄い重要なスキルを試したくてね。」
急いで、朝食を口にかき込んだ。
昨日の朝食は、俺の晩飯食いそびれに配慮してくれて豪勢だったけど、今日の朝食は普通の軽めの朝食だったのが有難かった。
おかげで、すぐに食べ終わる事が出来た。
「ごちそうさまでした!」
・・・
「御三方ご協力感謝いたします。早速ですが、隣の部屋にアルディ、この部屋にグラーシュとエレナで、これから俺は透明になって壁を通り抜けて隣の部屋を行き来します。」
「!?」
「上手に姿が消えているか、壁に変化があるか、他に気になることがあるか、チェックしてください。」
「ル、ルラン様!」
「はい、グラーシュさん!」
「何を言ってるんですか?」
むっ・・・まぁ、そうなるか。
「ん-、そうだね。グラーシュは鑑定眼で、終始、俺の声がするあたりを見ていてくれるかな?」
「は・・・はい。」
“アルディとエレナは思念で知らせてくれればいいや。”
“”御意“”
俺も2つの部屋に光の粒子を散布して、自分の様子をモニタリングだ。
「準備開始!」
アルディはすぐに隣の部屋に移動した。
俺は壁の前に移動した。
「ここを行き来するから、見やすい位置で見ててね。」
グラーシュ、エレナが頷いて、思い思いの場所に移動した。
「それじゃあ、始めるよ。」
まずは、光学迷彩!
「あ・・・」
グラーシュが声を漏らした。
2度目でもやはり慣れてないみたいだ。
これも、理解してってお願いしても、難しいんだろうな~。
そういう物だと思ってもらうしかないか。
さて、換闇透過との併用開始!
「いくよー!」
徐々に体を壁に入れていく。
グラーシュもエレナも特に声を上げていない。
順調そうだ。
アルディの顔が見えてきた・・・。
そして、無事に壁を通過できた。
誰も声を上げなかった。
自分の様子が頭の中に浮かんでいるが、異常は見当たらなかった。
上手くいったみたいだ。
あとは透過スピードを上げてどうかだ。
自室に戻るときは、壁に向かって飛び込んだ。
「あ!戻ってきた!」
着地音がわずかに生じてしまったために、グラーシュが気が付いたようだ。
理論上は、着地音が出ないはずなのに・・・。
頭の中でうまくいくって判断したことも、いざやってみると案外ちょっと具合が違う事はよくある事だ。
それにしても、なんか悔しい!
全身隈なく注意を巡らせて・・・。
「もう一回いきまーす。」
アルディの居る部屋へ、壁に向かって、ジャンプ!
今度は足音の吸音に成功した。
感覚の残っているうちに、自室にジャンプ!
良し!
3人に気が付かれずに透過完了!
光学迷彩解除!
「わ!」
ペタン!
突然姿を現した俺にびっくりしたグラーシュが尻もちをついた。
見えた!
じゃない!!
「ごめん、驚かせちゃったね。」
グラーシュに手を差し伸べた。
手を取って立ち上がったグラーシュは、どこか不安げな顔をしている。
「このスキルは濫用しないから、安心して欲しいな。」
「約束ですからね。」
「分かった。約束する。」




