第39話 透明人間へ
グラーシュとエレナを連れて、昨日奇襲を受けた砂浜に到着した。
周囲を注意深く見て回ったが、海坊主と海小坊主の痕跡は何もなかった。
海坊主たちが普通の生物だとしたら、死体に生物が群がるなどして、何かしらの痕跡が残るはずなのに・・・。
やはり、純粋な生き物ではないってことなのか・・・。
この辺は俺に知識が無いから、これ以上考えても分からないから、保留するしかない。
懸案事項が残っていくのは気に入らないけど、仕方ない。
それはそれとして、次だ。
エレナの重召喚を試さなければ。
「エレナ、重召喚してもいい?」
「はい。」
自分の中にストックされている闇の粒子から、エレナに用いた分と同量を利用して、重召喚をイメージした。
次の瞬間、エレナが真っ黒な球に包まれて、徐々にエレナが姿を見せた。
何もない所に、召喚された者が姿を現す“通常の召喚”の方が、ある種の感動を覚えるけど。
重召喚は、既に居る者が粒子に包まれて姿を現すだけで、あまりにも呆気無くて、なんとも拍子抜けなんだよな~。
でも、エレナの闇の粒子の量を探ると、間違いなく2倍になっている。
成功だ。
これで、【黒き理】☆11だ。
グラーシュを見ると、首をかしげて、ボーっと見ているだけだ。
エレナの変化が分かるのは俺だけ?
この変化は、グラーシュの持つ属性では検知できない・・・関係無い・・・って事なのか?
ん-。
この点も知識不足で、これ以上は考察できない。
考えても答えが出ない物を考えても時間の無駄だ。
次!
今朝のクライマックス、“光学迷彩”だ。
「グラーシュ、ちょっといい?」
「はい」
「エレナもお願いね。」
「分かりました。」
「グラーシュは、あの辺、エレナは・・・、あの辺に立って、俺を見てて」
2人が俺の指定した場所に立ってくれた。
その間に俺が立って、光学迷彩をイメージした。
「あっ!」
グラーシュが声を上げた。
「どうした?」
「え?ルラン様、どこ?」
「ん、動いてないよ。どうなった?」
「あれ?ルラン様の声・・・エレナしか見えないです。」
「俺が居た場所の砂を見て!」
「はい」
俺はあえて砂を跳ね上げるように、周囲を歩いて見せた。
「どう?」
「え?どうなってるんですか?」
「エレナ~」
「はい、ルラン様の姿は見えません。」
良し。
視界用粒子を眼の上に置いて映像を脳裏に送るのも完璧だ。
「グラーシュ、俺はここに居るから、鑑定眼で見て!」
念のため、もう一度俺の居場所が分かるように、砂を蹴ってみた。
「はい。」
位置を確認したグラーシュが鑑定眼を使い始めた。
・・・
「本当にそこに居ますか?」
「いるよ。ほらっ」
そう言って足元の砂を足でかき寄せたり蹴り上げたりした。
「うーん、何も見えません・・・。ルラン様・・・どこに・・・。」
グラーシュのしょげている姿を見ていられなくなって、光学迷彩を解いた。
「大丈夫だって、ここに居るから。」
俺を見つけたグラーシュは、落ち着きを取り戻した様子だった。
「もう一回試すね。」
「はい。」
光学迷彩を張ったうえで、視界確保用の光の粒子を散布!
う・・・
これは・・・酔うな。
酷い映像酔いに襲われた。
本来の目の位置で身の回りを把握するのと、かなり違うから、感覚が付いていけてない。
しかも、複数始点の映像が頭の中で3Dホロのように浮かんでくる。
これは、これで非常に優れた能力だ。
使いこなせるならば、圧倒的にこちらの方が良い。
「こっちのパターンは、訓練が必要だな。」
「グラーシュ、エレナ、俺の姿は?」
「全く見えません。鑑定眼でも視認できません。」
「私も同じく。見えていません。」
「ありがとう。」
返事と同時に光学迷彩を解いた。
やたら光学迷彩を張って光の粒子を散布すると、訓練と言えどグラーシュが心配しそうだからやめよう。
ミーヴ侯爵城までの道中で、出来る限り目を瞑って光の粒子を自分の身の回りに散布して、自分の動きと周囲を同時に見ながら行動する練習をしよう。
何の因果か、道中はグラーシュの修行の時間ってだけじゃなくて、俺の修行の時間にもなってしまったわけだ。
まぁ、アルディとエレナに周囲の警戒と先導を任せれば、何とかなりそうだからイイんだけどさ。
でも、その前に・・・。




