第34話 海辺の怪
「どうしました?」
何も言わない俺を不思議に思って、グラーシュが尋ねてきた。
「何かが近づいてきてる・・・のかな。」
「え?どこからですか?」
「沖の方からか?」
・・・
次第に打ち寄せる波が大きくなって、海の中から真っ黒の坊主頭の巨人が姿を現した。
「何・・・これ・・・。」
目だけが不気味にこちらを見ている。
「海・・・坊主?」
グラーシュが呟いた。
「海坊主?」
この世界には、こんなのが居るのか?
気が付くと周りを何かに囲まれている。
フォグパレスの青い光で、朧気ながら見える姿は、目の前の巨人とよく似た真っ黒の人の形をした存在だった。
目だけがギョロギョロと動いて、ゆっくりこっちに近づいている。
海小坊主?
どれも2mサイズだから、眼前の巨人ほど圧力を感じないが、数が・・・。
100人位か・・・。
声でもかけてみるか。
「すいませーん。御話ってできま・・・・」
ブンッ!
投石が飛んできた。
どうやら言葉は不要のようだ。
「グラーシュ、海坊主って何してくるの?」
「分かりません。ただ破壊だけをする存在って、昔話で聞いたことがあります。」
昔話って・・・。
仕方ない。
「グラーシュ、ハイポーションは!」
「旅館です。」
「そしたら、これ飲んで!」
とりあえず1本投げ渡した。
グラーシュは豪快に一気飲みして気合が入り直したようだ。
「これも渡しておく!」
もう一本投げ渡した。
「それじゃ、2人は、海小坊主を各個撃破ね!俺は小坊主とデカいのを叩く!」
・・・
グラーシュは指輪の力も使いながら、戦い始めた。
が、海小坊主が不憫でならないわ。
海小坊主が、殴られる度に、蹴られる度に、爆散している。
アルディは、グラーシュから受けた傷と素手の為、上手く戦えていない様子だった。
素手で来てなんて言うんじゃなかった。
ごめん。
再召喚するか。
こんな戦闘中で上手くいくのか分からないけど、一か八かだ!
アルディの体が光に包まれた・・・と思ったらすぐに光が落ち着いた。
アルディの体はすっかり元に戻っている。
え?
これだけでいいの?
ってか、アルディの体の光の粒子、倍になってない?
どういうこと?
アルディが自分の体の異変に気が付いて、戦闘中にもかかわらず、殴る蹴るといった基本動作で、体を確認し始めた。
「おぉぉぉーっ!」
いきなりアルディが雄叫びを上げた。
確認が済んで、気合が入り直したようだ。
詳しい事は、今夜おじいさんに聞くとして、今は目の前の敵の撃破だ!
さて、どうするか。
海坊主までの距離はあるから、ひとまず仕込み杖で・・・
ヘッドショット!
「ぐぅ・・・」
海坊主は唸っただけだ。
どういうこと?
生き物なら、ヘッドショットで十分じゃねぇの?
現に、足りてないんだから仕方ないか。
海坊主が右手を振り上げて、叩き潰しに来た。
ダガーに持ち替えて、踏み込み、刃渡りを伸縮させながら、切り上げて右手を切り落とす。
動きの止まった海坊主。
間髪入れずに、切り下ろし。
「まだまだー!」
逆風、袈裟切り、左切り上げ、逆袈裟、右切り上げ、胴、逆胴・・・とにかく切り刻んだ。
ヘッドショットで足りないんだから、どこが急所か分からない。
考えている暇は無い。
反撃の隙を与えず、切って切って切りまくる。
切り落とされた黒い塊が、次々に水面に落下し、音を立てて水しぶきを上げていた。
海面から出ている部分が無くなったところで、切りかかるのを止めて様子を伺った。
完全に沈黙している。
周囲にいた海小坊主も姿が無くなっていた。




