第28話 その両立は出来ない
気が付くと、浴衣姿のグラーシュの膝枕で、うちわで扇がれていた。
「俺・・・」
「のぼせて倒れられたので、運びました。」
「ごめん。」
薄い浴衣の生地を通して、太ももの柔らかい感触が伝わってくる。
胸の谷間からグラーシュの湯上りの綺麗な顔が見える。
こんなん、全然、のぼせから回復する気がしないわ。
俺がグラーシュの自立を促そうとしても上手くいかない訳だわ。
グラーシュにしてみたら、俺がマヌケすぎて心配なんだろうな。
美人耐性の無い俺は、シンプルに、グラーシュにクラクラしているんですけど、グラーシュはその辺は自覚無いからな~。
俺も俺だけど、グラーシュもグラーシュだ。
だけど、この手のタイプって、あなたは絶世の美女なんですよって言っても、聞かないんだよな~。
だって、ちゃんと聞き入れて自覚してたら、こういう行動にならないし・・・。
ってか、グラーシュを俺の思いのままに変えるってのは、おこがましい話だ。
俺が変わればいいってだけのことなんだけどさ。
でもな~、美人耐性無しで35年も生きた俺がこれから耐性を持てる気がしないんだよな~。
それでも、諦めたらそこで終わりだし、これから少しずつ慣れていくしかないか。
しかし、この幸せな生き地獄である“湯上り膝枕で延々と続く意識朦朧”には終止符を打たねば、意識をまた失いそうだ。
「ちょっと宜しいでしょうか?お食事の用意が出来ました!」
「はーい!」
グラーシュが仲居さんに返事をしてくれた。
「失礼します~。」
「どうぞ。」
「あらぁ・・・ふふふ。」
顔を出さなかったからって覗き込んでくるなんて!グラーシュも中に入れるなよ。
ってか、おい、女将、今ちょっと喜んだだろ!
分かってるんだぞ。
意識朦朧としてるけど。
「よろしければ、お二方の分はこちらの部屋にお持ちしましょうか?」
「すいませんが、そうして頂けますか。」
グラーシュ、そうじゃない。
グラーシュは立ち上がって、俺を畳に放り出すんだ・・・。
できる訳ないか・・・。
仕方ない、俺が・・・。
起き上がろうとしたら、またフラッと来た。
「危ない!」
グラーシュが慌てて両手を広げて・・・むにっ。
顔からグラーシュのおっぱいの谷間に突っ込んでしまった。
もうだめだ・・・。
・・・
・・・・・
気が付くと、目の前の和風テーブルに、豪勢な海鮮料理が所狭しと並んでいた。
船盛、鍋料理、焼きガニ、貝の炉端焼き・・・これでもか言わんばかりだ。
しかし、俺は相変わらずの幸せな生き地獄状態。
「グラーシュ、先に食べてて良いよ。せっかくの豪華料理が、勿体ない。」
「はい。」
「俺も調子が戻ったら食べるから。」
「はい。」
・・・
グラーシュはなぜか膝枕したまま料理を食べようと工夫している。
そうじゃないんだ、グラーシュ・・・。
俺はグラーシュが料理を見ている隙に、ゴロンと膝から降りた。
「大丈夫だから。」
「はい・・・。」
グラーシュが近くの座椅子に正座して食べ始めた。
行儀の良い事。
座椅子に正座する子初めて見たわ。
ともあれ、俺のことを気に掛けながら食べようとしてくれてるんだね。
気を遣ってくれてありがとう。
俺は、目を瞑って、回復に集中した。
聞こえてくるグラーシュの食事の音が、食欲を刺激してくれたのもあって、意識が戻ってきた。
「わーっ、ルラン様、これ美味しい!」
グラーシュが突然、声を上げた。
気になって目を開けると・・・
見えた!・・・とかじゃない!!
見えてる!
和室でごろ寝してる俺に、浴衣のグラーシュが正座で膝を開いてこっち向いたら・・・
もうそれ、見せてるだろ。
ふとももの奥に・・・
目が釘付けで離せない・・・。
胸の鼓動が脳天まで響いてくる・・・。
ヤバい・・・。




