第16話 プロの“かまし”
「あぁ、エレナですか。仲間の1人ですよ。」
「そうかそうか。その・・エレナさんは、いいのかね?」
え?
エレナの武具はお構いなくって言いたいところだけど・・・いい機会だから本人に来てみるか。
「アルディ、エレナと馬の番交代して。後で呼ぶから」
「御意。」
アルディと入れ違いでエレナが入店してきた。
フードから顔を出した瞬間、ボルカールの顔がまた呆けてしまった。
“エレナ、フードまでだ。ローブは脱ぐな”
“分かりました”
「エレナさんは、武器とかいかがですか?」
「私は、ルラン様から十分な武器と防具を頂いていますので、お構いなく。」
一礼すると、エレナは出て行ってしまった。
はっきりしてるなぁ。
見れば、ボルカールもポカーンとしている。
入れ替わりでアルディが入ってきた。
「さて、ボルカールさん。アルディの弓を作って欲しいんですけど、作れますかね?」
「ちょっと待ってくれ!その前にエレナさんの武器を見せてくれ!」
「何でですか?」
「鍛冶屋をやって、名匠と言われてから、あんなにきっぱりと断られたのは初めてで・・・いやそんなことより、他の武器の方がいいと聞いたら、観ずにはいられん。」
「まぁ、良いじゃないですか。個人の好みとかありますし・・・。」
「嫌じゃ。んーーー!見せてくれないと、弓を作らん!」
頑固ジジイ!
「見せたら、作ってくれるんですよね。」
「くどい!吐いた唾は飲まんわ!」
仕方ないな。
「エレナ―、武器持って入って来てー!」
すぐに身の丈を超える大きなハルバードを持って店に入ってきた。
「―――!?」
ドン引きしとるやん。
次の瞬間、さっきまでエレナに興味があったのが嘘のように、ハルバートを見ている。
「もういいでしょ?」
「見せてくれるって言ったのは誰だ?」
「見せてるでしょ。」
「そんな馬鹿な話が有るか!ついて来い!」
・・・
ボルカールの後をついて地下に移動した。
作業場のようだ。
「さて、2つ試し切りしてくれるか。こいつと、こいつだ」
そう言って、試し切り用の巻き藁のような物を指さした。
エレナは、静かに前に出て、一刀ずつ入れて、音も無く、2つとも両断した。
ボルカールが大きな口を開けて固まってしまったが、エレナは一礼して出て行ってしまった。
そんなに凄い事なのか・・・?
確かに、エレナのハルバートは、異常なほど切れる。
でも、ボルカール製の武器だってこのくらいの切れ味なんじゃないの?
「どうなってるんじゃ・・・」
我に返ったボルカールが、2つ目の試し切りの切り口を、舐めるように見ている。
なぜ、1つ目を見ない?
不思議に思って、ボルカールに近づき、切り口を俺も覗き込んだ。
やりやがったな、このジジイ!
2つ目の方は、芯に金属が仕込まれてる!
やらかした!
まさか、武器じゃ切れるはずが無かったんか?
「エレナさんは、ルラン様から頂いた武器と言ってたな・・・」
「ははは、そうでしたっけ・・・」
「あれはどこで手に入れた?」
「えーっと、レーゼン侯爵城で頂いたんじゃなかったかな?」
「バカを言え、レーゼン侯爵のところに、あんな武器ないわ!」
そうだった、この爺さんは、レーゼン侯爵城を出入りしてたんだった。




