第20話 ミーヴまでが遠い
「ちょ・・・ちょっと待ってください。何ですか?」
「え?」
目の前に、突然話しかけられて驚いた表情のグラーシュが居た。
あの2人に声を掛けたつもりだったのに。
「あ・・・、何でもない。寝ぼけてたみたい。」
朝っぱらから、恥ずかしいわ・・・。
「そうですか・・・。おはようございます、ルラン様。」
「改めまして、おはようございまーす。用意して出発しますよ~。」
「「はい。」」
3人とも気持ち良い返事で、仕切り直しに答えてくれた。
こういうのは本当にありがたい。
「で、今日は、王都の西の市街地を迂回して王都を脱出し、ミーヴ侯爵領の最南端を目指します!」
「え?西の市街地に入らないんですか!?」
「グラーシュ、ごめん。西の市街地は入らないよ。昨日あれだけ派手に貴族の前で【軍】魔法を使って見せたからね。」
「あ・・・。」
「多分、王都の市街地はどれも、スカウト網が張られていると思うんだ。」
「そう言う事ですか・・・。」
「ごめんね。」
「大丈夫です。」
「西の市街地は、いずれのんびり観光できる時が来るよ。」
「はい。楽しみにしています。」
「多分、今日は思いっきり走っても、ミーヴには到着できないから・・・まったり行きましょう。」
「はい。」
・・・
・・・・・
出発すると、早々にグラーシュが馬上でウォーターニードルの訓練を始めた。
「グラーシュ!」
「はい!?」
「あ、ごめん、驚かせちゃった?」
「いえ、大丈夫です。」
「今日からミーヴまでは、遠回りになるかもしれないけど、誰も居ないルートで行くから!」
「はい。」
「だから、周りを気にせずフォグパレスを使った状態で、魔法の熟練度を上げる練習してみて。」
「はい!・・・早速いいですか?」
「いいよ、始めて。」
「フォグパレス!」
ブワッ!
「サイズの調整もコツをつかんだようだね!」
「はい・・・。」
「そしたら、フォグパレスの保護対象から俺を外して。俺はフォグパレスの外に出るから、俺に向けてガストジャベリン撃ちまくって、そのあとはウォーターニードルだね。」
「はい・・・。」
・・・
・・・・・
結局、西の市街地の郊外で、今夜も野営となった。
道なき道を行くのは、旅の初めのころにもしたことがあるから、精神的には参ってこないんだけど・・・。
まぁ、進まない。
このペースだと、ミーヴ入りは数日後か・・・。
右手に西の市街地が広がっているとわかっていると、ミーヴ入りが出来ない事への焦燥感に、次から次へと湧いてきた。
それでも、道中が長い方が、グラーシュの魔法訓練ができるから有意義なんだと言い聞かせて、先へと進んだ。
この日の夜は、魔法の訓練で疲れ果てたグラーシュが真っ先に就寝し、俺も片付けを済ませ、アルディとエレナに交代で見張るように指示を出して寝た。




