第8話 温まって夜の準備
帰りの馬車は快適そのものだった。
何せ、リーチ伯爵は、精神的疲労から、完全にグロッキーだったからだ。
執事もグラーシュを口説くように言われてなかったようで、静かにしていてくれたし。
時折、グラーシュが座りながら、上半身だけでシャドーの様な動きをしていた。
それを目の当たりにしたリーチ伯爵から小さな悲鳴のようなものが聞こえたが、いい刺激になっていたと思う・・・多分。
反復練習や、イメージトレーニングは、とっても大切だよね。
学生時代のクラブ活動を思い出すわ。
古い記憶に浸っているうちに、リーチ伯爵邸に到着した。
「「おかえりなさいませ」」
馬車を降りると、メイド数人に出迎えられた。
「お食事の用意が出来ています。」
「うむ・・・」
全然元気ないじゃん。
仮に元気なくても、カラ元気でお礼ぐらい言え!
食事の準備も済ませて出迎えてくれてるってのに・・・。
めちゃくちゃ良くしてもらってるじゃん!
なんだ、この伯爵!
外回りして、営業所に戻って、パワハラ受けて・・・。
誰も居ないアパートに戻って、冷凍食品やレトルト食品を独りで食べてみろっての!
・・・
いや、俺がこっちの文化を分かってないだけのことか・・・。
リーチ伯爵のこの態度しか見ていないから、“貴族かくあるべし”とかよくわからない訳だし・・・。
昔は昔、今は今、程よく順応しないと。
・・・
・・・・・
食事の最中もリーチ伯爵はグロッキーなままで、黙っていてくれた。
おかげで、料理に集中できて、美味しくいただけた。
「グラーシュ、今夜も?」
「はい、やります!よろしくお願いします。」
また・・・アレか・・・今夜も激しく悶えるのかな。
今夜のフォグパレスも、レアで【軍】だから、有り得るな・・・。
また、えっちぃんだろうな・・・。
じゃない!
グラーシュは真面目に取り組んでいるんだから、俺もちゃんとせねば!
「そしたら、シャワー浴びて明日の準備してるから、昨日と同じ頃に来て。」
「はい。」
執事とメイドの視線を感じた。
なんか昨晩の騒ぎを誤解されているような・・・。
ただ、邪魔されても嫌だし、余計な詮索をされても嫌だし、リーチ伯爵のスカウトが過熱しても嫌だし・・・
まぁ、いっか。
「すいません、大浴場がございますので、宜しければそちらもご利用ください。」
突然口を開いた執事の発言に、期待が膨らんでしまった。
「大浴場?」
「はい。ございます。」
「是非!」
「部屋の外で待機しますので、ご準備整ったらご案内いたします。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ、滅相もございません。」
・・・
・・・・・
案内された大浴場は、イメージしていたビジネスホテルの“大浴場”ではなかった。
内湯、露天風呂、リラクゼーション、畳の間まであって、よもや、温泉施設のようだ。
貴族って、すげぇな。
温泉好きの俺としては、たまらないひと時だった。
ついつい、内湯と露天風呂を往復したり、マッサージを受けたり、畳の間でゴロゴロしたり・・・。
一緒に入っているアルディは、露天風呂で呆けていた・・・ように見えた。
いいよね~、露天風呂。
空を眺めて風呂に浸かるって気分いいし、秋の空気の冷たさのおかげで、のぼせないで入っていられるし。
ここの為に、定期的にリーチ伯爵邸を訪問してもいいな・・・。
あ!
やば、グラーシュの事をすっかり忘れてた!
俺は慌てて部屋に戻った。
部屋の外には、湯上りの美人が既に居た。
「ごめん、待たせちゃったね。」
「大丈夫です。」
「入って入って。」
“エレナ、アルディ、今夜も部屋の外で警戒よろしく”
“”御意“”




