第7話 グラーシュからの吉報
これ以上調べても、本当のことが分からないんだから、10号棟に居ても仕方ない。
管理人にお礼を言って、総合案内のある1号棟に向かった。
まだグラーシュとリーチ伯爵の姿は無い。
・・・
10号棟が歴史本を扱っていて、それが2階建ての小さな建物だって時点で気が付くべきだった。
そうすれば・・・。
いや!
このネガティブは、当初の希望“都立図書館で(正しい)歴史を知る事が出来る”が、達成できなかった事が原因だ!
そして、そもそも10号棟にはそれを叶える本が無かったのだから、この当初の希望は、始めから実現が出来ない希望だったんだ。
始めから実現できない希望を、実現できなかった~って凹んでいるのは時間がもったいない!
気持ちを切り替えよう!
「ルラン様―!」
声のする方を見るとグラーシュが手を振ってこちらに近づいてきている。
後ろにはげっそりしたリーチ伯爵も居た。
あれ?
そんなんじゃ、帰りの馬車の中でグラーシュを説得できないんじゃないの?
「リーチ伯爵、どうしたんですか?何があったんですか?」
「何があったも何も・・・」
「グラーシュ、何があったの?」
「別に何も無いですよ。」
「いえ!グラーシュ殿は、格闘術のホログラフィックを見ては、グラーシュ殿の言う通りのポーズをとる私に、寸止めで繰り返し試して・・・」
その度にグラーシュの殺気に当てられて、精も根も尽きたって事か。
ははは、そりゃ、そうなってもおかしくないわな。
リーチ伯爵は、ロビーのソファに倒れ込み、そして寝入ってしまった。
お疲れ様です。
「で、収穫はあった?」
「はい!色々と技のバリエーションが増えました。」
「それは重畳!」
「特に上半身の・・・」
そう言いかけて、見てもらった方が早いと言わんばかりに、グラーシュはシャドーし始めた。
「ちょ、分かったから。」
「はい・・・。ルラン様は?」
「空振り!」
「え!?」
「全く収穫が無かったわけじゃないんだけどね。」
「そうでしたか・・・。」
「あのさぁ。グラーシュ、レーゼン侯爵のところに図書館って有った?」
「ありましたよ。でも、その昔、大火事に遭ってしまったらしいです。」
そうか、それは過激で物騒な焚書だな。
「ただ、大切な古い本は図書館に置かずに、大切に保管していたから、火事を免れたって。」
「え?」
「それに、シーデリアで最も古い本が、レーゼンにはあるって話を聞いたことがあります。」
「おぉぉぉ、それは望みが出てきたかも!ありがとう、貴重な情報だよ、グラーシュ!」
「良かったです。」
ということは、この探求心を抑えきれなかった場合には、いずれレーゼン侯爵領にもお邪魔しなきゃいけないって訳だ。
俺は全くの別人だから全然平気なんだけど・・・。
グラーシュは城に立ち寄ると、思いっきり面が割れているから、面倒くさいことになりそうだな。
まぁ、そん時はそん時で、何とかするしかないか。
今から向かうわけじゃないし。
考えても仕方ない事は考えない。




