第5話 シーデリアの歴史書へ
「いらっしゃいませ。」
総合案内所の事務員さんは、気持ち良い挨拶で迎えてくれた。
「すいません。世界史、もしくはこのシーデリアの歴史の分かる本は・・・」
「それでしたら、一番奥の10号棟になります。」
「ありがとうございます。行ってみます。」
「そちらの女性は?」
「格闘術の本とかありますか?」
「ございます。格闘術でしたら・・・ホログラフが浮かぶマジックスクロールでの視聴もできますがいかがですか?」
「そ・・・それ、お願いします!」
「かしこまりました。格闘術や武具の使い方に関しての書籍は3号棟に、ホロ視聴用マジックスクロールに関しては2号棟になります。」
「えーっと・・・」
「私はグラーシュ殿についていきますので。」
リーチ伯爵が右手をかざして堂々と断っていた。
なんなんだこのおっさん、まだ下手なプレゼンを続けるつもりか。
「分かりました。」
事務員さんも、ちょっと引いてるじゃん。
リーチ伯爵は、生活の中にちりばめられているシグナルに早く気が付いた方がいいような気がするな。
まぁ、本人の目に留まらないだろうから、仕方ないか。
「それじゃ、後でね。」
俺はグラーシュに、そう告げると足早に10号棟に向けて歩き出した。
だって、リーチ伯爵、もうお腹いっぱいなんだもん。
どうせ、帰りの馬車の中も、話聞かされるんだから、出来るだけ聞いていない時間を作ってリフレッシュしたい。
「あ・・・」
グラーシュが何か言いたげなことに気がついた。
「調べ終わったら、総合案内集合ね。多分夕方まで10号棟に籠ると思う。よろしくね。」
「はい・・・。」
・・・
世界史など歴史を扱う“10号棟”に着いた。
なんだ・・・。
この小さな建物は・・・。
他の建物が4階建てや5階建てなのに。
何故、この10号棟だけ2階建ての小さな建物なんだ?
都立図書館でしょ?
きっと目一杯、蔵書が詰まっているんだろう。
そう自分に言い聞かせて、中に入ってみた。
「いらっしゃい。」
入口の脇にカウンターがあり、その奥は管理人室のようだ。
奥から管理人の小さな声が聞こえた。
「そこに名前書いて入ってね。」
カウンターの上には真っ新な見開きのノートがあった。
「え?これですか?」
「そう。それ以外ないでしょ。」
ちょ、なんて投げやりな。
えーっと、どうやって書くんだろう
前のページを巻くってみた。
開きっぱなしだったのか、完全に太陽光で色褪せて判別不能なページが出てきた。
ちょっと待て・・・
「利用者、いつ振りですか?」
「もう忘れちゃったなぁ。」
おいおい、どうやって書けばいいんだよ。
「私、ギルド会員の従者で来てるんですけど・・・」
「そう。それなら、そのギルド会員の名前書いといて。」
名前だけでいいとか、雑だなぁ。
そういえば、こっちに来てから日付を意識した事無かったな。
「今日って、何年何日でしたっけ?」
「えーっとぉ、西暦9153年10月31日だね。」
え?
「西暦!?」
「今更王歴なんて使っても、誰もわかりゃしないよ。」
「王歴?」
「なんだい?おかしなことを聞くねぇ。」
「あ、すいません。その辺も含めて勉強したくて来ました。」
「ふーん。楽しんでって。」
その一言を最後に管理人室は静かになった。




