第3話 命の恩人の扱い
「初めからグラーシュ一行だけで、何とかなるとわかっていたら、公爵も報酬を負担したかもしれませんね。」
「そうすると・・・」
「当然、報酬額は減ります。でも、きっと、貴族にしてもらえますよ。もちろん、自分の派閥に入れって迫ってくるでしょうけど。」
だろうな。
その意味では、今回の仕事は、報酬多め・しがらみ少な目・立場無しってトッピングだった訳か。
自由に旅をしたい俺としては、運が良かったな。
貴族は・・・必要になったら取るとしよう。
「リーチ伯爵、すいませんが、数日泊めて頂けますか?」
「構いません。いっそ、このまま住んでもらっても大丈夫ですよ!」
俺のお願いを、あっさり飲んでくれたのは嬉しいけど、それに乗じて本音を言ったな?
「気持ちだけ有難くいただきます!」
すかさず、グラーシュがきっぱりと断った。
それを聞いたリーチ伯爵は、げんなりしてしまった。
伯爵も命の恩人には強く出れないか。
にしても、グラーシュ、手加減無いな・・・。
「朝食の準備が整いました。」
執事さん、ナイスタイミング!
馬屋を後にして、本館に移動した。
・・・
純白のテーブルクロスに大仰な料理が並んでいた。
おいおい、朝食だぞ。
なんとしても、グラーシュを引き込みたいって事なのか・・・。
「今日は、図書館巡りですか?」
リーチ伯爵が口を開いた。
「巡れるか分かりませんけど、とりあえず、都立図書館に行こうかと・・・都立図書館までは、歩いていける距離ですか?」
「まさか。馬車を出しますよ。」
おいおい、聞いているのは俺だ、俺に答えろよ!
「ありがとうございます。」
「グラーシュ殿、気にしないでください。」
おい、リーチ、ぶっ飛ばすぞ。
話してるのは、俺だ。
俺とグラーシュは対等なんだぞ。
従者って事にしてるけど。
なんなら、俺はグラーシュを呼び捨てにしていて、グラーシュは俺を様付である事実から目を逸らすな!
じゃない。耳か。
ホント、人って見たいように見て、聞きたいように聞いて・・・。
見たくない物は見えないことに、聞きたくない事はきこえなかったことにするよな~。
美味しいと感じてた料理も、いつしか味がよく分からなくなってきた。
こんな事で取り乱すなんて・・・
まだまだ俺も未熟だな。
おじいさんと先生からは、最強だって言われてるけど。
こんなんじゃ、心も最強を目指さないとバランスが取れない!っとかって、怒られるんだろうな。
食事が終わるころ、メイドが独り部屋に入ってきた。
「馬車の用意が出来ました。」
は?
こういうところは、貴族の凄さを感じるわ。
「私も行きます!」
「へ?」
リーチ伯爵の宣言に驚いて声を出してしまった。
「何か不満なことが?・・・グラーシュ殿、初めての都立図書館では使い方など、分からない事もあるでしょう。私が案内します。」
グラーシュ殿じゃないだろ!って、もういいや。
「ありがとうございます。部屋に戻って用意が出来たら表に出ますね。」
そう言って自室に戻った。
アルディとエレナに待機を命じて、あとはリーチ伯爵に促されるまま馬車で都立図書館に向かった。




