第26話 伯爵邸
「お待ちしていました。お入りください。」
鉄の門扉が開き、誘導された。
そのまま馬屋・・・ではなく、邸宅に入った。
通されたのは、広い応接間だ。
メイドが次々と料理を運んでくる・・・
どうしてこうなった。
さっさとエラムを引き取って帰りたかったのに。
こんな事になるなって。
料理が全て揃う頃に、リーチ伯爵が入ってきた。
前回会ったときは、軍服だったから、貴族っぽい高そうな服に身を包んでいる姿に違和感しかない。
でも、こっちが本来の姿なんだろうな~。
「夜分遅くに訪問してしまって、すいません。」
グラーシュが、一言目を発した。
「いえいえ、お気になさらず。」
ん?
俺が最後に会ったときと態度がだいぶ違うぞ。
グラーシュの一言目も割と砕けてるし、リーチ伯も尊大な感じしない。
「エラムを引き取りに来ました。」
「え・・・やはりダメですか?」
「はい。」
グラーシュ、はっきりしてるな~。
リーチ伯爵のエラムに対する感謝からの、交渉して更に何かを得ようとか、そういう邪な考えが全く無いんだろう。
生き物として考えれば、衣食住をリーチ伯爵に保証して貰えば、エラムはここに残る方が幸せなのかもしれない。
そうすると、俺が初めて乗った馬だからこれから先もって思いは、エゴなのかもしれない。
ん-。
エラムの声が聴けたらいいのにな~。
「ひとまず・・・今夜は遅いですし、うちに泊まりませんか?」
リーチ伯爵も、為す術無しで、やっとの思いで出した言葉は、少し寂しげだった。
俺も中身はおっさんだから、良い歳こいたおっさんの寂しい顔ってのは、見るのがなんだかキツいなぁ。
偉そうにしている鼻っ柱を、ちょこっとへし折るくらいが、丁度いいかもしれない。
察するに、リーチ伯爵は、命の恩人のグラーシュとその一行の意に反することを、ごり押しできないって感じか。
「お言葉に甘えて、今夜はこちらに泊まらせて頂きます。」
割り込むように俺が口を開くと、グラーシュが驚いた様子だった。
「それは良かった。おい!すぐに手配しろ!」
リーチ伯の一声で、同室していたメイドが足早に退出していった。
グラーシュが先に本題をぶん投げて、リーチ伯爵の苦し紛れの提案を飲んで・・・。
とてもじゃないが、出てきた料理を楽しく食べるような雰囲気じゃなくなっちゃったな。
こういう時は謝意を示すことから始めると意外と上手くいく・・・って前世の会社員時代の経験で学んだから、実践と行きますか。
「マイール山の報酬は、リーチ伯爵の御取り計らいで、無事に先ほど受け取ることが出来ました。ありがとうございました。」
「そんなこと・・・私の力不足で大変なことになってしまって・・・。」
「殉職者が多かったので、後の処理が大変ですよね。」
「はい。ただ、全ては私の責任というわけではなく、王都側も責任を認めているようで、助かりました。」
「王都側の責任・・・というと?」
「はい。手配した王都側も自らの下調べ不足や、報酬体制の不備が、内部不統制を招いたと判断してくれたみたいです。」
それと、子爵以下の連隊員の意識が低すぎたことだな。
小さい時にやった避難訓練よりも、酷かったぞ。
まるで、遠足気分だった。
大人の遠足・・・。
いや、節操が無いし、仲間割れどころか闇討ち上等だったから、遠足以下か・・・。
この3つが、絶妙に足を引っ張り合って、最悪だった・・・だから全滅した。




