第21話 久しぶりの南の英傑
グラーシュに変身した分身体から、“南の英傑”に到着したとの連絡が入った。
そちらに意識を向けると、“南の英傑”の正面広場の前に立っていた。
フードを目深に被って、ローブもきっちり着込んで露出が無いようにしたから、特に絡まれること無く到着できたようだ。
前回の訪問から、1週間も経っていないのに、久しぶりの訪問の様な気がする。
この間に、マイール山の激戦があったからだろうか・・・。
出発前は、この広場に大勢の冒険者と貴族が居た。
結局生き残ったのは、俺らと連隊長のリーチ伯爵・・・。
逃げのびた負傷兵も、もしかしたら居たかもしれない。
ただ、どの冒険者も重体や重症者だったから、再びギルドでお目に掛ることは無いだろう。
広場を通過して、館に入り、受付にて、職員に声を掛けた。
「すいませーん。グラーシュ・カラーです。馬を引き取りに来ました。」
「はーい。少々お待ちくださーい。」
・・・
「仮登録されているグラーシュさんですね?」
「はい、そうです。」
「リーチ伯爵より、本登録をするように言われていますので、早速手続きに入ります。」
「あの~、その前に、預けている馬は?」
「はい。本登録を済ませた上で、お引渡し致します。」
「え?」
「ですから、属性鑑定球にて本人確認をさせて頂いたうえで、本登録を済ませます。」
「はぁ。」
「その後、リーチ伯爵の代理手続きでお預かりしている白馬エラムを、会員のグラーシュさんに引き渡しという流れになります。」
ちょ・・・、そうなの?
連隊長のリーチ伯爵絡みの業務となると、上手い事やってくれるわけないか。
でも、ここで属性鑑定されてしまうと、グラーシュ本人ではないことがバレてしまう。
ここは力業で逃げ切るしかないか・・・。
「すいません。形式上はそうなっているかもしれませんが、私の馬であることはお判りいただいている筈ですが?」
「はい・・・。ただ手続き的にはそうなりますので・・・」
やっぱりか。
公立ギルドとの関係もあってか、融通の利かない“お役所仕事”のようだな・・・。
「分かりました・・・ですが、まずエラムの姿を確認させてください。飼い主として、まずはエラムの状態が気になっているんです。そのくらいは分かっていただけますよね?」
「はい・・・。どうぞこちらへ・・・」
職員はしぶしぶこちらの言い分を飲んで、馬屋に通してくれた。
馬屋で、エラムは元気そうにしていた。
「おぉぉ、元気そうで良かった!」
「リーチ伯爵より、丁重に扱うように言われてますし、世話をするのに十分なお金を頂いています。」
「そうでしたか。」
リーチ伯爵、有難う。
ってか、伯爵は、この後エラムを貰うつもりで居るから、当然と言えば当然か。
「何日分くらいのおカネを?」
「とりあえず1週間分頂いています。それ以降は1週間ごとに来るとおっしゃっていました。」
ははは、すげぇ細かいな。
ってか、それだけエラムに御熱って事か。
「では、戻って手続きを。」
「分かりました。その前に御トイレを借りてもよろしいでしょうか?」
「本館の受付の向いにございます。」




