第11話 試分変身
「実はね、俺、分身が作れるの!」
「分身って何ですか?」
「そうか・・・。」
そこから説明した方が良いのか。
まぁ、“百聞は一見に如かず”って言うから、見て貰いますか。
「ちょっと見て。」
俺の左隣に、光の粒子で作った分身を作って見せた。
「ルラン様が2人?」
「こっちが本体で、そっちが分身体だよ。」
指を差して説明した。
「分身体も自由に動かせるんだ。」
俺の発言の直後に、俺の分身体が、俺に変わって出発の準備作業に当たり始めた。
「す・・・凄いですね。」
「でね。これを“南の英傑”に飛ばして、エラムを引き取ろうと思うのよ?」
「は・・・い・・・?」
段々とグラーシュが怪訝そうな表情に変わってきているような気がした。
「でもさ、エラムを預けたのは?」
「私です。」
「冒険者として登録しているのも?」
「私です。」
「つまり、俺の分身体のままでは、引き取り作業に手間取りそうだよね。」
「はい。」
「だから、この分身体をグラーシュに変身させようと思う。」
「そんなこともできるんですか?」
「たぶんできる。」
「・・・」
「試してもイイ?」
「どうぞ。」
グラーシュの体にな~れ!ってね。
次の瞬間、分身体がグラーシュになった。
分身体はオートで動かすことも、マニュアル、つまり俺がもう一つの体として動かすこともできる。
そして、自分で動かして分かる、これはそっくりとかじゃない。
もう、そのものだ。
分身体から、出発準備作業に伝わってくる様々な情報が、そう物語っている。
手の感触、足の感触・・・。
揺れる胸、股の間がスース―する感じ・・・。
段々と恥ずかしくなってきた。
俺が・・・メチャクチャ露出度高い格好してる。
グラーシュは格闘術を使うから動きやすい方が良いと割り切っているからいいだろうけど。
俺はこの格好になったからって、グラーシュと同じ格闘スキルを持っている訳じゃないから、この格好で良いって割り切れない・・・。
でも、この格好で“南の英傑”にエラムを預けた訳だから、受付で引き取りの話をする際にはこの格好にならなければならないのか・・・。
ん?
使えないのかな・・・グラーシュの格闘術・・・。
自分で考えても仕方ない。
やって見せて、確認しよう。
「グラーシュ、パンチってこんな感じ?」
グラーシュの前で正拳突きをしてみた。
「全然だめですっ!全く違いますっ!!」
ははは、これは手厳しい。
グラーシュがいかに真面目に格闘術と向き合っているかが良くわかるわ。
「ありがとう。」
「え?教えなくていいんですか?」
「大丈夫。確認だけから。」
俺の分身体の変身では、変身したものと同様のスキルは使いないことが分かった。
という事は・・・。
分身体から偵察用の光の粒子を飛ばせ・・・・た!
つまり、見た目だけか。
でも、このグラーシュの恰好のまま、ルランと同じ、ダガー、コンパクトハンドガン、仕込み杖を使った戦い方ではまずいな。
カムフラージュの為にも、俺も格闘術を使わねば・・・。
そうだ!
「ちょっと、ここ任せていい?」
「ルラン様、どこかに行かれるんですか?」
「二度寝しようかなってさ。」
「はい・・・どうぞ・・・。」
そりゃそうだよね。
こんなに豪快に二度寝宣言されたら、俺でも呆れてそういうリアクションになるわ。
分身体を納めて自室に向かった。




