第15話 元作戦本部で待機
出発前に、ケイコに案内してもらって、村長の家を訪問した。
「おはようございます、村長。」
「おはようございます。」
「昨日は突然の宿泊先の手配をして下さり、ありがとうございました。」
「いえいえ、宿泊先というか・・・気が休まらなかったでしょう。なんだか申し訳ないです。」
ケイコに謝っているように見えた。
村長の目にも、ケイコが睡眠不足であることが、容易に見抜けたようだ。
「気になさらないでください。このところ野営が続いてましたので、ホントに助かりました。」
「そうでしたか。それなら少しはマシだったかもしれませんね。」
「ところで、あの家の奥にある書斎には、物凄い量の魔導書がきれいに整頓されて本棚に並んでいましたが、この後どうされるんですか?」
「あぁ、あれは・・・この村に図書館を作って、誰でも閲覧できるようにしようかと思案中です。」
流石に「下さい!」ってのは難しそうだな。
あの蔵書の凄さは誰の目にも明らかだもんな。
「もしかして、村民限定の図書館ですか?」
「今のところ、その予定です。」
「私がこの集落に立ち寄った時には、その図書館を利用させていただきたいのですが・・・。」
「そ・・・そんな・・・ルラン様は自由にお使いください。エルフの村に住み着いたゴブリンとオーガを殲滅した英雄なのですから。」
俺が・・・英雄?
“死に様は生き様”なんて言葉を耳にしたことがあるが・・・
物凄い下痢の挙句に、肛門から出血死した俺が英雄?
なんか他の英雄に申し訳なくなるわ。
村長へのお礼を済ませ、俺たちは最終目的地の“最初の集落”攻略のために、グラーシュとの集合場所を目指して出発した。
・・・
・・・・・
グラーシュからの合図が何も無いまま、第1部隊の野営地跡地に到着した。
当初予定していたよりも随分早いから、無理もないか。
グラーシュの事だから、かなり飛ばしてここに向かってくれているはずだ。
確認用に周囲に光の粒子を散開させた。
は?
もうすぐ到着しそうな場所まで来ている。
グラーシュを乗せて全力疾走するストークの姿からは、鬼気迫るものを感じた。
これは、到着してすぐに攻略できないな。
ストークの消耗が激しそうだ。
到着は今日でも、攻略は明日ってところか。
グラーシュの周囲には誰も居ない。
これで用意して付いてきたら、リーチ伯爵も大したものだと認めたのに・・・。
作戦失敗で打ちひしがれて、それどころでは無いかもな。
最終攻略茶衣装の南側で孤軍奮闘しているアルディの様子もチェックした。
程よく刺激して、各個撃破しているようだ。
「エレナ!」
「はい。」
「悪いけど、アルディと同じことを、今から拠点の北側でやってくれるかな。」
「分かりました。」
返事をすると、エレナは速やかに行動に移した。
俺とケイコだけで、負け戦の元作戦本部でグラーシュを待った。
本部内には背中に矢を受けた軍服の男の亡骸があった。
リーチ伯爵に撤退を言いに来た隣の拠点攻略担当の伯爵だろう・・・。
埋葬する時間も無かったのか。
ケイコは近寄らない。
そりゃそうか。
ケイコにして見れば、不甲斐ない王都軍側の指揮官の1人でしかない。
「どこかに埋葬するか・・・」
「向こう行ってる。」
そう言うと、ケイコは元作戦本部から出て行った。
死後数日が経過している。
秋のマイール山の麓だから、涼しい日々が続いているが、野ざらしだから、かなり腐敗が進んでいる。
手に持って埋葬場所を探すのは、ちょっと気が引ける・・・。
一旦収納するか・・・。
左手をかざして取り込んだ。
うげぇ。
嫌悪感が俺を襲う。
ちょっとの辛抱だ。
自分に言い聞かせて、元作戦本部の外に出て、近くの木の根元に埋葬した。
「終わった?」
手を合わせ終わったころ、ケイコが戻ってきた。
「ケイコ、ちょっといい?」
「うん。」
 




