第6話 村長の困惑
しばらくすると、村長と思しきおじさんが、ケイコに腕を引っ張られて出てきた。
「突然訪問してしまって、すいません。」
なんで俺が誤ってるんだ・・・。
「いえいえ、ケイコを助けて下さり、ありがとうございます。」
「そうじゃないでしょ!」
すかさずケイコがツッコミを入れた。
ケイコ・・・パワー系だな。
「せっかくの申し出なのですが・・・」
「いーじゃん、こうしているうちに攻められるんだよ!」
「ちょっと待ってね、ケイコちゃん。村長さんの話を聞こう、ね?」
ケイコは、絵に描いたようなふくれっ面になったが、静かになってくれた。
「村長さん、お話を聞かせて下さい。」
「はい。せっかくの申し出なのですが、うちの村が担当しているのは、ケイコを救っていただいた集落だけでして。」
「そうでしたか。」
「残りの4集落も、相当と奪還をして頂けるのは助かるのですが、他の村が今後どのように進めるか、まだ決まってませんで。」
「そうですよね。こんな予想外の大敗北となったのは今日の事ですし。」
「はい・・・。もう一度挟撃できるのか、エルフだけで攻略するのかによって、投入する戦力が異なります。」
「・・・」
「エルフだけとなると他の集落とも協力しながらになりますし・・・」
「ルラン達が全部落とすんだから、別にいいじゃない!」
「ケイコ、やってもらうにしても、こっちは何も用意してないんだぞ。それに・・・。」
気にしているのは、戦力だな。
敵の数が予想を超えて、ハンパじゃない。
仮に、俺の申し出を丸っと受け入れて、万が一戦力が足りているとしたら、次は、奪還後の処理と成功報酬がネックになる。
5拠点を集落として復興した上で、防衛力を整えるとすると、他のエルフの集落からの協力は必須なんだろうな。
成功報酬の点は、仮にマイール山のエルフと王都が一緒に負担するとしていたのなら・・・
この災厄を俺ら3人で、この集落からの依頼として解決した場合に、この村だけで報酬を負担することになるだろう。
額が大きすぎて対応が出来ないって事かな?
「割賦払いでいいですよ!」って言いたいところだが、5つの集落が落とされた惨状を見てきた手前、冗談でも言える雰囲気じゃない。
どちらも勝手に決めれるような話じゃないよね。
「分かりました。」
「ごめんなさい。」
「村長が謝る事ではないですよ。」
「そうかもしれませんが・・・。」
「そしたら、ケイコと5拠点の偵察に回ってもいいですか?」
「偵察ですか?」
「はい、私は王都側の特別掃討奪還連隊の生き残りです。このままでは王都側も引き下がれないでしょう。」
「今回の失敗は、ゴブリンとオーガの数の読み間違いにあったと考えています。再チャレンジするにしても、攻略地点の情報は非常に重要ですから。」
「それはそうでしょうけど・・・」
「偵察して、王都に情報を持ち帰りたいと考えています。ただ、5つの集落の位置はおろか周辺地域の知識もございません。」
「・・・」
「知己のエルフはケイコだけなので、ケイコと一緒に偵察に回りたいと思いまして。」
「ケイコは?」
村長がケイコを見ると、ケイコは力強く頷いた。
ため息を1つ吐いた村長が、力無く頷いてくれた。
すかさず、ケイコが俺の腕を掴んだ。
もう出発する気だ。
「すいません、わがままを言ってしまって。ありがとうございました。ちなみに、南から順に回ろうかなって思ってますので・・・」
「関連する集落に連絡と調整をしておきます。」
なんとか、ケイコに抵抗して、伝えるべきことを伝えれた。
しかし、村長の家を出てもケイコの牽引は止まらない。
「わかったから!そんなに引っ張らなくても行くから!」
「・・・」
「集落の入口で準備して待っているから、おばあちゃんに挨拶してきて。」
「はぁーい。」
なんだよ、そのくらい良いじゃないか。
やっぱり、小さいころから“できる子”って、ちやほやされたりして自信がついてしまうと、なんか我儘というか・・・。
自分の判断が正しいって“ごり押しタイプ”になっちゃうよな。
色々経験して、良い感じに育ってくれるといいんだけど。