第18話 想定外の事実への対応
斥候の結果で作戦本部が騒然としているという事は、何か予想外の事実を知ったからだろう。
でも、まぁ、俺が考えても仕方ない。
俺が重要視している事と、この部隊で重要視されている事が違うってことが、ここまでの行軍でよくわかっている。
俺が偵察に出して新事実を知って出す結論と、この部隊の指揮官の出す結論は違うことが目に見えている。
そのギャップに苛立つぐらいなら、俺は偵察に出さずに、下りてくる指示を待った方が気が楽だ。
それに、そもそも、俺はここまでの“ぐだりっぷり”に呆れていたから、バカらしくて、戦場の偵察をする気にならない。
俺達は今回、“給仕”だし。
だから、テントに戻って、連絡を待つことにした。
「集合!集合―!」
テントから顔を差すと、大声を上げる軍服姿の男が見えた。
なんか、デジャヴだな。
きっと、ろくなことを言われないんだろう。
そう思いながら、集合場所に到着した。
「リーチ伯爵より、大切なお話がある!静粛に聞くように!」
口上を述べた男と入れ違いでリーチ伯爵が部隊の前に出た。
「斥候の結果、敵の数が予想よりも多いことが判明した。その数はおよそ2倍だ。」
2倍!?
当初の予想の精度が低すぎないか?
そりゃあ、作戦本部も騒然とするわけだわ。
「他の部隊の斥候結果とすり合わせた結果、他の4つの奪還対象も同様のものと考えられる。」
全然楽勝じゃないじゃん。
「しかし、エルフとの挟撃は明日未明と決まっている。予定通り攻撃を開始する。」
エルフ頼みか・・・。
もしかして、エルフって、物凄い強いのかな。
俺の読みが正しければ、マイール山は水属性だ。
ゴブリンとオーガが脅威と踏んで、王都に救援依頼を出すという事は・・・ゴブリンとオーガが土属性で、相性最悪だからなんじゃないか?
そんな立場のエルフに頼るって、大丈夫なのだろうか・・・。
「ただし、戦力の逐次投入はしない。作戦本部および後方支援以外の全てを投入して、総攻撃をかける!」
戦力の逐次投入をしないのは良いが・・・ずいぶん勇ましいな。
でも・・・、もうこれしかないのか。
士気を保つことも難しい。
いっそ、短期決戦で士気を爆発させて、一気呵成に掃討し奪還・・・か。
「速やかに、攻撃部隊は準備を済ませて、ここに集合し、指示を待て。以上、解散!」
雲行きが怪しくなってきたな。
敵軍は2倍、自軍はアッチ目的の女性も含めた編制で、しかもお互いに報酬を巡って闇討ちを画策し合っている・・・。
想像以上に圧倒的な不利、参加者は指揮官より現場の状況がよく見えている。
一致団結できる訳が無い。
もしかすると、作戦本部には何か秘策があるのかもしれないけど・・・。
・・・
・・・・・
第1部隊が準備を済ませて集合を済ませた頃、西と東で火の手が上がった。
先行する子爵の部隊が予定通り相当・奪還作戦を始めたようだ。
続けて、東隣と西隣の伯爵率いる部隊が動き始めたようだ。
「第1部隊、作戦行動開始!」
作戦本部に居るリーチ伯爵が、部隊先頭に居る軍服の男に指示を出した。
「いくぞぉぉぉ!」
「「おぉぉ!」」
勇ましい軍服の男の声に、部隊員が一斉に声を上げて出発していった。
秘策・・・あるよね?
俺達だけが知らされていない秘策・・・。