第15話 指輪の特訓
「最後は、さっき発生した積層の構造の光の盾で殴るってのとやってみます。」
「盾で殴る?」
「そう。」
「・・・」
「分かりにくかったね。例えば、さっきの光の盾が拳に宿っていることをイメージしてみて。」
「はい」
グラーシュが右の拳を静かに自分の前に繰り出した。
拳の先には光の盾が姿を現した。
「いい感じ!その調子だよ。」
「これで?・・・殴る?」
「そう。試しに近くの木の幹でも殴ってみたら?」
「はい。」
ベギィッ!
鈍い音が響いた。
が、思ったほどの攻撃力じゃなかった。
「あんまりパッとしなかったかな?」
「・・・」
「でも、馬の上では足技は上手に使えないだろうから、この技があった方が便利だよね。」
「・・・」
「グラーシュ?」
「はい・・・」
「どうしたの?」
「テストはこれで最後ですよね?」
「そうだよ。」
「ちょっと、これ・・・自分の思うように試していいですか?」
そっか、ぶん殴るって言っても、俺みたいな素人が考えた事だし。
グラーシュの格闘術を俺はよく理解していないから、いっそ任せちゃった方が、使いこなせるようになるよね。
“大丈夫じゃ。儂がみてるから!”
脳裏におじいさんからのメッセージが届いた・・・ような気がした。
「OKだよ。でも、行軍開始時間までには済ませなきゃだからね。」
「はい。」
「それと、邪魔しないから、俺もここに居ていいかな?」
何か光の粒子の使い方のヒントを貰えるかもしれないし。
「もちろんです。」
・・・
・・・・・
だんだんと木が可哀想になるような、えげつない音を立てるようになってきた。
「グラーシュ?」
「はい!」
「どんな感じ?まだ、やれそう?」
「はい!」
・・・
・・・・・
ドォォーン!
ついに木が倒れてしまった。
しかし、幸いにも、野営地までは音が届いていないみたいで、こちらに向かってくる者は居なかった。
グラーシュは、コツを掴んでここからが本番だとばかりに気合十分な様子だ。
「グラーシュ、もうちょっとやるよね?」
「はい!」
「そしたらさ、野営地に気づかれないように倒木直前に、俺が回収で手を出すけどいいかな?」
「はい!」
手を出すというか、吸収用の闇の粒子を広げるだけなんだけどね。
・・・
・・・・・
「終わりました!」
「満足のいく仕上がりになったかい?」
「はい!」
「それは良かった・・・。それじゃ、野営地に戻ろうか。」
気が付けば明るくなってきていた。
これ以上はグラーシュに嫌だと言われても野営地に連れて帰るつもりだったけど、タイミングよく終わってくれてよかった。
しかしまぁ、どのくらい伐採・・・もとい、殴り倒しただろう。
不自然にも、直径20mくらいのこの一帯だけ完全に木が無くなってしまった。
「ところで、グラーシュ、周囲のノームは怒ってないよね?」
「大丈夫です。選んで試しましたから。」
流石グラーシュ、そういうところは俺と違って完璧だよね。
でもさ、選んで倒して、一本も残らないってのは変だよね。
もしかして、ノームがドン引きして、グラーシュの言いなりになっていただけなんじゃないか。
まぁ、グラーシュの力だけなら、ここまでの結果になってない・・・。
ノームもそのくらいは見越していた・・・
しかし、予想外の結果を見せられて、ノームたちも自分たちの手に負えないって降参したのかも。
俺がノームだったら・・・やっぱり、顔面蒼白して頷くだけだろうな~。