第9話 予想していた想定外
「おいおい、聞いたか、子爵の部隊はどこもかしこも女を連れ込んでるぞ。」
「俺も聞いたぞ。20人位は居るみたいだな。」
「100人中20人が!?やべぇな、それ。目的地に着いた時には腰が立たねぇんじゃねぇの。」
「どうしてそんなにいるんだよ。今日貴族どもが来た時にはそんな大所帯じゃなかったじゃねぇか。」
「バカだな。裏で根回しして、ギルドに冒険者登録させて、冒険者扱いで参加させてるんだよ。」
「さすが、子爵様たちは考えることが違う。」
「それに、“南の英傑”に圧力掛けて募集したから、精鋭揃いで楽勝って考えたんじゃねぇか。」
「とってもお強いエルフとの挟み撃ちだしな。」
「聞けば、エルフの方が困って要請して来たんだろ?エルフが必死で戦うだろうからな~。」
「はぁ。俺も子爵の部隊に入りたかったなぁ。」
自分のテントまでの移動で、漏れ聞こえてくる話が、酷い。
おいおい、大丈夫なのか、この“特別掃討奪還連隊”なる一団は!
俺の4頭も危ういな。
「ちょっと、アレがアレなので、テント前をアルディとエレナと俺で交互に見張って、今夜は休むことにしまーす。最初は俺が見張るね~。」
「え?私は見張らなくていいんですか?」
「グラーシュ、忘れたの?俺らは形式上、グラーシュの従者なんだよ。グラーシュは中で休んで。」
「そんなことできません・・・」
「そしたら、良く休んで、明日の給仕は俺の分も頑張ってくれるかな?」
「はい。」
・・・
・・・・・
「こんばんは。」
俺の見張りも終わりに差し掛かったころ、松明も使わずに近づいてきた男に声をかけられた。
ビックリしたけど、切り捨てる訳にもいかず、様子を見ることにした。
「こんばんは。」
「あんた、美人さんの従者だったな?」
「そうですが、どんなご用件ですか?」
「いや、大したことじゃない、ちょっと聞きたいことがあってさ。」
「何です?」
「あんたんところは、どこに付くことにしたんだい?」
「付く?」
「・・・」
「なんですか?」
「驚いたな、何も考えてないのか?」
「え?」
「おいおい、あの美人さんから、報酬の話は聞いてないのか?」
「いえ、聞いてますよ。掃討・奪還を済ませて、帰ってから“南の英傑”に届く報酬を山分けでしたよね?」
「それを聞いて、あの美人さんから、それからの話を聞いてないのか?」
やっぱりか。
嫌な予感はしていたんだ。
成功した後の帰り道、頭数を減らせば、一人頭の報酬額が増える。
ゴブリンとオーガの総数からして、“南の英傑”の集めた精鋭にしてみれば余裕で達成となるだろう。
戦闘に紛れて、知名度の低い奴を暗殺・・・
帰路でも、負傷兵を暗殺・・・
想像したくなかったから、思考の外に追いやっていたが、やはり無視できそうにないか。
特に、俺らは知名度0の、ギルド仮登録。
当たり前のように、暗殺対象だよね。
それを回避したいなら、早々に、有力な派閥を見極めて、すり寄るのが良いって事になる・・・。
で、この男は、何だ?